債務不履行に追い込まれた住宅開発大手、中国江蘇省鎮江の住宅開発大手碧桂園(12月5日) Photo by Costfoto/NurPhoto

中国のGDP成長率は2024年第1〜3四半期に、それぞれ5.3%、4.7%、4.6%と鈍化し、目標の5%前後を達成できないのではという懸念が高まった。最新のデータは、中国経済がついに曲がり角に差しかかったことを示している。

2021年前半のコロナ禍による最悪の都市封鎖から解放されても、中国人は銀行預金を積み上げ続けた。2020年1月〜2024年8月に、中国では個人の銀行預金が65兆4000億元(約1380兆円)も増加した。


中国政府はこの間、いくつかの支援策を導入したが、副作用を懸念して積極的な景気刺激策の実施は控えた。2008年の世界金融危機の後に政府が導入した大規模な景気刺激策は成長に拍車をかけたが、同時に不動産バブルをあおり、地方政府の債務を増やし、投資効率を低下させた。

2024年第3四半期末に、中国経済が成長軌道を回復するには一層の支援が必要であることが明らかになり、政府の政策は変わった。9月下旬、中国人民銀行の潘功勝(パン・コンション)総裁は、銀行の預金準備率と政策金利の引き下げ、株式市場を支援するための金融政策手段の創設という3つの措置を発表した。

10月12日には藍仏安(ラン・フォーアン)財政相が、新たな財政措置は地方の債務問題への対応、不動産市場の安定化、雇用支援に重点を置くと発表。その上で11月上旬、地方政府の債務借り換えを目的とした10兆元(約210兆円)規模のプログラムを発表した。

潘も藍も、刺激策をさらに準備していることを示唆している。早い周期で経済情勢を測るハイフリークエンシー経済指標の動きを見ると、政府の措置はほぼ即座に効果を発揮したようだ。

10月の社会融資総量(実体経済への融資総額)は前年同月比7.8%増、銀行融資残高は同7.7%増。小売売上高は前年同月比4.8%増、前月比1.6ポイント増となった。同じ10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、好調・不調の境目である50を6カ月ぶりに上回って50.1に達し、11月には50.3に上昇した。


しかし、2025年の見通しはそれほど明確ではない。中国が2025年にGDP成長率5%を達成するには、3つの重要な課題を克服しなくてはならない。まず、GDP成長率の約20%と家計資産の約70%を占める不動産セクターの安定化だ。

第2の課題は、地方自治体の財務状況だ。このところ地方は財政難のため、公務員の給与削減などで支出を削減したり、法人税の未納分を徴収したりして収入を確保しようとしている。根本的な問題は、債務が収入を上回っていることだ。中央政府は、早急に多額の一般歳入を地方に移転しなければならない。

第3の課題は、トランプ次期米大統領が中国からの全輸入品に60%の関税を課すと公約していることだ。

対米輸出は中国のGDPの3%を占めているため、重い関税は25年の経済成長に重大な影響を及ぼすだろう。例えばUBSインベストメント・バンクは、2025年の中国のGDP成長率は4%まで鈍化すると予測している。

経済成長には、構造改革とマクロ経済刺激策の両方が必要だ。政府はまず強力な財政政策の要素を含む決定的な景気刺激策を実施し、次に構造改革に目を向け、消費者、投資家、起業家の信頼感を高めることに重点を置くべきだ。

この1年、中国政府は信頼回復を目的としたいくつかの政策を発表した。しかし市場参加者が十分に納得していない現状では、さらに踏み込んで、民間企業の保護強化や、地方の役人が税収を増やすために企業の過去の納税記録の粗探しする慣行をやめさせることなどで、信頼回復のための構造改革を大胆かつ目に見える形で実施する必要がある。


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黄益平
HUANG YIPING
北京大学国家発展研究院教授(マクロ経済・金融政策)。中国人民銀行の金融政策委員会の委員を2015年から3年間務め、シティグループやバークレイズのエコノミストなどを歴任した。

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