欧州中央銀行(ECB)は12日の定例理事会で3会合連続となる利下げを決めた。経済大国ドイツをはじめとした欧州経済の減速懸念、フランス内政の混乱、そして高関税政策を唱える米国のトランプ次期大統領の就任(2025年1月)が重なる状況下で、ECBの主眼は収束しつつある物価上昇(インフレ)対策から、経済の下支えに移った。
「多くの不確定要素がある」。会合後の記者会見でラガルド総裁は、「不確定要素」「不確実性」という言葉を繰り返し使いながら、欧州経済の見通しについて語った。
欧州経済は今後、緩やかに回復するとみられているものの、ラガルド氏が指摘するように不安要素は少なくない。
筆頭は、高関税を課すとの主張を繰り返すトランプ氏の米大統領就任だ。ラガルド氏は保護主義的政策は「経済成長に貢献しない」と指摘し、物価についても最終的な影響は読みづらいとしつつも、少なくとも「短期的には上昇につながる」と警鐘を鳴らした。
欧州に目を向けても欧州連合(EU)主要国である独仏がいずれも政治・経済に懸念を抱えている。
経済大国のドイツは自動車大手フォルクスワーゲンがドイツ国内の工場閉鎖方針を発表するなど、経済不振が目立つ。内政では、連立政権が崩壊し、連邦議会(下院)選が25年2月に前倒しされることになった。
フランスは財政赤字が拡大するものの、勢力を増した極右や急進左派政党が赤字削減を目指した予算案を認めず、内閣を退陣に追い込んだ。
データで見ても、欧州経済は力強さを欠く。EU統計局によると、ユーロ圏20カ国の7~9月期の実質域内総生産(GDP)は、前期比0・4%増ではあるものの、パリ・オリンピックによる観光需要の増加など一時的要因に助けられている。ECBは新たに出した見通しで、25年の経済成長率は1・1%と9月予想時点の1・3%から下方修正した。
こうした点を踏まえ、ECBは民間銀行が資金を預ける際の中銀預金金利と、民間銀行が資金を借り入れる際の主要金利をそれぞれ0・25%ずつ引き下げた。
一方、新型コロナウイルス禍からの経済再開やエネルギー価格上昇などで22年に一時は10%を超えたインフレ率は、11月には2・3%と目標の2%に近い水準になっている。
ラガルド氏は「まだインフレには勝利していない」とクギを刺したが、一方で理事会では今回の利下げ幅について0・25%ではなく倍の0・5%を提案する声もあったと明かした。市場は25年もECBは経済の下支えを優先して利下げを続けるとの見方を強めている。【ブリュッセル岡大介】
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