(写真:Philip Cheung/The New York Times)

イーロン・マスクが、テスラで電気自動車(EV)の充電ステーション建設を手掛ける部門で人員削減を行い、アメリカ最大かつ最も信頼性の高い充電ネットワークの将来に不安をもたらしている。

他メーカーとの契約どうなる?と不安の声

テスラ社員約500人がレイオフされ、その多くが4月30日にSNSに投稿し、テスラのCEOであるマスクが昨年、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、その他の自動車メーカーの首脳と交わした、他社製のEVがテスラのスーパーチャージャーステーションを利用できるようにする契約について疑問の声を上げた。

テスラが他のEVメーカーと結んだ協定は、購入者がドライブ中に急速充電器を見つけられることを保証するもので、多くの人々がEVの購入をためらっている主な理由の1つに対処するものだった。また、マスクにとっては、テスラの技術を証明し、自動車業界に対する圧倒的な影響力を与える「クーデター」と見なされた。

ほぼすべての主要メーカーが、テスラの充電器に対応させるために車のハードウェアとソフトウェアを変更する計画を発表した。フォードはテスラの充電器に接続できるよう、旧型EVの所有者にアダプターを郵送している。

マスクは、自身が所有するソーシャルメディア「X」で、テスラは新しい充電ステーションの建設を遅らせ、「100%の稼働率と既存ロケーションの拡大に集中する」と述べた。

29日には、ニューヨーク・タイムズ紙が確認したテスラの従業員宛の電子メールの中で、マスクは新しいスーパーチャージャーステーションの建設に携わってきた「約500人が所属するグループ全体」を解散すると述べた。そのメッセージの中でマスクは、同社は建設中のステーションを完成させ、「重要場所」には新たなステーションを建設すると述べている。

全米にネットワークを築く方針から転換?

スーパーチャージャー・チームの突然の解雇は、多くの人々を驚かせた。
テスラのために充電器を設置しているアンドレス・ピンターは、30日の朝、同氏が建設プロジェクトで連絡を取り合っていた約20人を含む従業員のレイオフを知り、唖然としたと語る。同氏によると、交流があった従業員にメールをした際、「そのアドレスはもう無効である」という自動メッセージが返ってきたという。

「これはスーパーチャージャー・ネットワークを構築するという方針から一転する衝撃的な出来事だ」と、テキサス州オースティン拠点とするブレット・EVチャージング・ソリューションズのCEOであるピンターは語る。テスラは30日までにブレット社に対して、他州への進出と可能なかぎり迅速な対応を求めていたという。

本件についてテスラにコメントを求めたが返答はなかった。レイオフのニュースは、『ザ・インフォメーション』が先に報じている。

フォードの広報担当者マーティン・ギュンスベルグは、同社の計画に変更はないと述べた。

解雇された多くのテスラ従業員が、この人員削減について公に議論した。テスラの充電部門のシニアマネジャーであるウィリアム・ナヴァロ・ジェイムソンはXに、「このことが充電ネットワーク、NACS(北米充電規格)、そして業界全体で行っていたエキサイティングな仕事に何を意味するのか、私にはまだわからない」と書いた。

NACSはテスラによって開発され、信頼性が高く使いやすい充電技術として定評がある。

今回のレイオフは、テスラが全世界で1万4000人を解雇すると発表してから2週間後のことで、先週発表した第1四半期の純利益が55%減少した後、同社への信頼を取り戻しつつあった投資家たちを再び不安に陥れた。

30日の午後、テスラ株は約5%安で引けたが、25日から13%ほど上昇している。マスクはここ数週間、自動車販売台数の減少にもかかわらず、テスラには人工知能(AI)と自律走行技術に基づく製品による巨大な成長の可能性があると述べている。

充電ネットワークは、テスラがEV市場で圧倒的な地位を占めるための重要な要素とみなされている。2012年に同社初のセダンであるモデルSの販売を開始した当時、急速充電器はほとんどなかったが、テスラはその後、アメリカ内に2600基以上の急速充電器の自社ネットワークを構築した。多くの地域で唯一の充電器となっている。

「あなたのおかげでEVの普及が可能になった」と、充電部門のもう1人のシニアマネジャー、ジョージ・バハデューは、同じく職を失った他のチームメンバーへのメッセージとしてLinkedInで述べた。

解雇が残りの従業員の士気を低下させる懸念

他のメーカーにネットワークの利用を許可することで、テスラは潜在的に有利な経常収入源を開拓した。しかしマスクは、テスラ車を所有する特典の1つであった、ネットワークへの独占的アクセス権を明け渡してしまったことになる。

テスラは、充電ネットワーク構築のために連邦政府から資金援助を受けている。ヒョンデやフォードといった他メーカーがテスラの市場シェアを削っていく中、マスクは、ライバルの自動車販売を助けることになる充電ステーションをこれ以上多く建設することはテスラの利益にならないと判断したのかもしれない。

レイオフ後、苦渋の表情を浮かべる従業員もおり、突然の解雇がまだ会社に残っている従業員の士気を低下させる懸念が高まっている。

「もし1カ月前にテスラが10年以上の経験を持ち、今日の地位を築くのに貢献した従業員に対して、夜中に『従業員各位』というEメールだけで通知するような会社だということがあれば」と、充電部門の元社員であるレイン・チャップリンはLinkedInに書き込んだ。「そんなことありえない!と言ってたと思う」。

(執筆:Jack Ewing)

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