江蘇省・太倉の港から輸出されるEVなどの自動車 VCG/GETTY IMAGES

関税をめぐるドナルド・トランプ次期米大統領の脅しはしばらくニュースを独占しそうだ。だが、世界経済と貿易システムにとっては、中国の過剰生産能力が今後数年間の核心的な課題であることに変わりはない。

トランプは中国からの輸入品に60%の追加関税を課すという公約を掲げており、米中の貿易戦争は再び注目を集めるだろう。しかし他の主な経済圏では、中国の過剰生産能力の問題が深刻な影響を及ぼす可能性が高い。構造的な傾向を考えると、新たな中国ショックとそれに続く貿易摩擦の矢面に立たされそうなのはEUだ。


こうした現状を受けて中国の輸出は新興経済圏に向けられ始めており、昨年は輸出先の50%以上を占めた。この傾向は今後も続くとみられ、新興国は中国製品や直接投資の恩恵を受ける一方で、中国市場への輸出が限られているせいで自国の産業発展が危うくなっていることにいら立ちを募らせている。

トランプは中国以外についても全ての輸入品に10~20%の関税を課すと主張しており、中国の輸出が新興市場やEUへとシフトする動きは加速するだろう。その結果、これらの経済圏では、中国の「需要に見合わない過剰生産能力」と貿易不均衡に対する懸念がさらに高まることになる。

幸いなのは、中国の国内需要の低迷や、生産能力の過剰分を国際市場に輸出することが難しくなっている状況から、中国企業が生産能力の拡大を減速させる兆しが見られることだ。中国当局も外部からの圧力で、この問題に目を向けざるを得ない。

とはいえ、中国の過剰生産能力がもたらす複雑な世界規模の課題に対処するためには、さらなる貿易制限と革新的な政策手段が必要だ。EU、アメリカ、日本、インドは第三国経由の中国製品に対する規制を強化しており、中国からの輸入品は国家安全保障、環境、労働の観点からより厳しく監視されるだろう。


これらの課題について中国の主な対応は外国直接投資を増やすことで、これは貿易相手国からおおむね歓迎されている。新興国の政府の中には、自国内に製造施設を設立する中国の電気自動車(EV)メーカーに対して関税を引き下げるところもある。

ただし、こうしたアプローチの拡張性と有効性に疑問の声も高まっている。報道によると中国当局は国内の自動車メーカーに対し、中国製EVへの追加関税を支持する欧州諸国で工場建設などの投資計画を縮小するように迫っている。タイでは中国のEV企業が、現地のサプライヤーからの調達が足りないと批判されている。

中国企業が全ての主な貿易相手国で大規模な工場を建設するのは非現実的だ。また、中国の労働市場は低迷しており、製造業の雇用が国外に移転することを中国当局は嫌がるだろう。実際、9月には自動車メーカーに対し、EVの先端技術と生産能力を国内で維持するように指導したと報じられた。

中国が国内経済と市場を安定させる政策に移行していることは、国内需要と市場の信頼の低迷に、遅ればせながら対応しているとも言える。だが、持続可能な長期的成長に不可欠な消費刺激策は、今のところ家電などの下取りプログラムへの補助金増額と、住宅ローン金利の引き下げぐらいだ。


過剰生産能力の問題は、経済の再均衡化と産業政策の全面的な見直しが必要になる。中国の政府系エコノミストの間では革新的なアプローチの議論が高まっているが、指導者たちは依然として抜本的な改革に反対している。関税が積み上がり、地政学的な緊張が高まって、中国の景気減速が悪化しているなか、いずれは構造の問題と向き合わざるを得ないかもしれない。

©Project Syndicate


ブレンダン・ケリー
BRENDAN KELLY
2024年7月まで米国家安全保障会議の中国経済担当ディレクター。在中国大使館の財務担当官、ニューヨーク連邦準備銀行のアジア担当分析主任などを歴任。

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