今年7月、ビットコインのイベントで演説するトランプ。選挙後、ビットコインは史上最高値を記録 KEVIN WURMーREUTERS
<規制緩和や減税を期待して、猛烈に株価が上昇した企業がある一方で、「トランプ関連株」の好調が長続きする保証はない>
2021年1月6日、前年の米大統領選の結果を覆そうと、ドナルド・トランプ大統領(当時)の呼びかけに応じた暴徒が連邦議会議事堂を襲撃したとき、アメリカの企業経営者や投資家のほとんどは、トランプを厳しく非難した。だがそれは、あくまで一時的なことだったらしい。
なにしろ今回の大統領選を控えるなかで多くの経営者は、トランプと共和党に対する批判を控え、その一方で民主党の大統領候補カマラ・ハリスが勝っても大損をしないように投資先を分散しつつ、関係メディアにハリス支持を表明しないよう働きかけ、トランプの勝利が明らかになると、こぞって祝福したのだから。
アメリカの選挙はいつもそうだが、カネがものをいったわけだ。そして、そのリターンは、民主主義の衰退と権力の集中を糧にした「トランプ関連株」に再投資されている。
11月6日未明にトランプが勝利演説をすると、資本主義の象徴である金融市場は総じて大歓迎した(ただし債券市場だけは別だ)。
主要株価指数の多くは急伸し、米ドルも上昇。暗号資産(仮想通貨)に至っては、月にも届こうかという勢いの高騰だ。ビットコインが史上最高値を付けたほか、イーロン・マスクお気に入りの仮想通貨ドージコインも上昇した。
今年前半の株高を牽引したマグニフィセント・セブン(巨大テック7銘柄)は絶好調だし、トランプが立ち上げたSNSのトゥルース・ソーシャルも買われた。
テーザー銃を製造するアクソン・エンタープライズの株価も高騰(写真はアリゾナ州の本社) RICARDO ARDUENGOーREUTERS少なくとも現時点では、こうした金融市場の盛り上がりの背景にあるのは、アメリカの巨大企業にとって好ましいいくつかの要因だ。
トランプはもちろん企業寄りの政策を取ることを明確にしているし、FRB(米連邦準備理事会)がついに利下げに踏み切ったことも、投資環境に一定の活力を与えている。
バイデン政権が唱える公正な競争環境や法人税率引き上げを嫌気してきた経営者たちは、減税や規制緩和に飢えている。
その好例が、コンサート運営大手のライブ・ネーション・エンターテインメントだろう。同社は今年に入り、独占禁止法違反で司法省に提訴されたが、トランプの当選後、この訴えは近く取り下げられるとの見方をCFO(最高財務責任者)が示し、株価が急上昇した。
トランプ政権が新たに発足すれば、強硬な競争擁護派であるリナ・カーン連邦取引委員会(FTC)委員長は、更迭を免れないだろう。
とはいえ、全ての企業がトランプ関連株の恩恵を受けているわけではない。再生可能エネルギーやワクチンメーカーなど、トランプが繰り返し攻撃してきた業界や企業の株価は下がっている。
アパレルや家電などの消費財メーカーの株価も振るわない。
選挙後の長期金利の上昇で、住宅ローン金利が上昇したことが響いた。この業界は、トランプが主張してきた不法移民の大量国外追放と関税率引き上げの影響も懸念している。不法移民がいなくなれば労働力が不足するし、関税率の引き上げは輸入材料のコストを上昇させるだろう。
こうしたこと全ては、数字のためなら弱者も民主主義も犠牲にすることをいとわないアメリカ型資本主義の表れだ。そしてトランプ関連株は、4年前に暴動をあおった男の復活から利益を得ようとしているのは誰かを教えてくれる。
だが、実は経済オンチのリーダーが愚策を推し進めたとき、彼らは本当に得をし、生き残ることができるのか。今後数年間の動向を注視するべき企業を紹介しよう。
仮想通貨業界は安泰なのか
仮想通貨業界は今回の選挙(大統領選だけでなく、連邦上下院議員の選挙もあった)に莫大な投資をした。共和・民主両党の議員に献金しまくり、将来の安全を買ったわけだ。
トランプ自身、仮想通貨の技術を応用した独自のNFT(非代替性トークン)のトレーディングカードを発行したり、暗号通貨取引所「ワールド・リバティ・ファイナンシャル」の設置に関わったり、ドル建ての裏付け資産のあるステーブルコインの発行計画を明らかにしたりと、積極姿勢を示してきた。
ただ、トランプは今年7月のイベント「ビットコイン2024」で、自分が大統領になったら、仮想通貨の取引に慎重姿勢を示してきたゲーリー・ゲンスラー米証券取引委員会(SEC)委員長を更迭すると述べており、個人投資家を食い物にする危険な商品が増える危険もある。
ではここから、トランプ関連株の恩恵を最も受けた企業を紹介していこう。
マイクロストラテジー ビットコイン相場が史上最高額に達するなか、仮想通貨関連のソフトウエア企業マイクロストラテジーも多大な恩恵を被っている。大統領選直前には、20年以来最大となる約20億ドル分のビットコインを追加購入。巨額の資金調達に新たに乗り出す計画も発表した。
エヌビディア エネルギーを大量消費するビットコインマイニングには、米半導体大手エヌビディアが当初から専門としてきたタイプのプロセッサーが不可欠。おかげで同社は時価総額3兆ドル超の企業へと成長した。
コインベース 暗号資産取引所コインベースのブライアン・アームストロングCEOは、大統領選で仮想通貨業界のロビー活動を行った中心人物。同社は連邦裁判所の執行機関である連邦保安局から暗号資産保管の委託を受けている。暗号資産の証券としての取り扱いをめぐるSECとの訴訟も乗り切れそう。
他の業界で恩恵を被るのは?
特に大きな利益を得られそうな「トランプ派閥」は以下のとおり。
テスラ トランプの選挙戦を支えたイーロン・マスクCEOが政権の要職に就く可能性が高まった時点でテスラの株価は急騰し、マスクの個人資産も一段と膨れ上がっている(テスラ株は今も彼の富の中核を成す)。
トランプが電気自動車に興味を示さなくても、テスラは既にロボット事業や完全自動運転のロボタクシーに軸足を移しているから問題ない。またテスラや、同じくマスクが所有するスペースXが連邦政府の規制や労働組合の厄介な問題に振り回されることもなくなるだろう。
大手銀行 金融機関も好調だ。JPモルガン・チェースのCEOジェームズ・ダイモンはトランプが「正しい」ときもあると発言した以外は大統領選について無言を貫き、株価は順調。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーの幹部は来年に向けて企業統合が増えるとの予測を表明しており、投資家も「バイデン後」に希望を膨らませている。
エナジー・トランスファー 環境への悪影響が問題視されるダコタ・アクセス・パイプラインを陰で支える同社だが、化石燃料を愛する環境軽視の新大統領に優遇される見込みだ。
パランティア・テクノロジーズ AI(人工知能)監視技術や軍事情報サービス、データ分析技術を提供する同社の共同創業者は、熱烈なトランプ支持者として知られるピーター・ティール。同社と政府機関の契約がさらに増えるとみられる。
民間刑務所 オバマ政権は民間刑務所の廃止を決めたが、トランプ政権下で撤回され、刑務所ビジネスは大いに沸いた。今後は不法移民の大規模な強制送還計画によって民間刑務所の需要が高まるとみられ、ジオグループやコアシビックなどの運営会社は大喜びだ。
トランプの「家族分離政策」の父で、前トランプ政権で移民関税執行局(ICE)局長代理を務めたトム・ホーマンの国境政策責任者への復帰が発表されると、両社の株価は急騰した。
アクソン・エンタープライズ トランプが警察の軍事化を推進し、地元警察に移民の取り締まりを担当させるとの予測から、警官が携帯するテーザー銃の製造元(旧名:テーザー・インターナショナル)の株価も高騰している。
合法移民も不法移民もアメリカの繁栄と国際的地位の向上に貢献してきたが、彼らを迫害することで得をする人がいるのも事実。人種的資本主義がまたも勝利した。
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「トランプ関連株」をめぐり最も憂慮すべきは、アメリカの大富豪にとってはどんな極端な行為も──クーデター未遂も、露骨な偏見と根拠なき恐怖の扇動も、性的虐待の有罪判決も、世界におけるアメリカの評判の悪化さえも──許容範囲だということだろう。「自由市場」が民主主義を守ると期待したのは甘かった。
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