2018年に「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家・野﨑幸助さん(当時77)に致死量の覚醒剤を摂取させて殺害した罪に問われている、当時の妻・須藤早貴被告(28)。須藤被告は「覚醒剤を摂取したこともないし、殺していない」と無罪を主張している。11月8日に始まった被告人質問で、被告は “野﨑さんは愛犬の死後、死にたいと繰り返し言っていた”と供述。事件性そのものを争う姿勢を、改めて鮮明にした。
“愛犬の死後、野﨑さん憔悴”「泣きながら『死にたい』と言ってきたから…」
“覚醒剤の密売人”と接触し、“白い結晶状のもの”を購入した点は認めたものの、「購入は野﨑さんからの依頼だった」「手に入れた白いものは覚醒剤の本物ではなかった」という旨の語った須藤被告。
その後も続いた被告人質問では、野﨑さんの愛犬「イブ」が2018年5月6日、つまり野﨑さんが亡くなる約半月前に死んだ後、野﨑さんの様子がおかしくなったと述べた。
須藤早貴被告(以下、被告)
「(愛犬イブを)溺愛していたので憔悴していました。変なことを言いだすようになって、私から見たら“頭おかしくなったな”って」
「被害妄想というか、『エサに変なものを盛っただろう』と、Tさん(家政婦の女性)と大げんかしていました」
被告曰く、野﨑さんは愛犬の死後、“経営する会社の従業員が残業代を虚偽申告している”など、疑心暗鬼の言動をしたり、南紀白浜空港に被告を1人で迎えに行き、旗を振って出迎えるなど、“奇異”な行動を取ったりする場面があったという。そして…。
被告「(野﨑さんは)イブが死んでから『死にたい』と言ってました。従業員の前でも言ってました。『もう自分も死んでしまいたい』と。構ってほしくて言ってるんだろうなと思ったけど、だんだん本気だと思い始めた」
「泣きながら『死にたい』と言ってきたから、ネットで“死にたいという人への対応”を調べた」
確かに被告の検索履歴では、5月14日に「死にたいって言う人」「死にたいと言われたら」という履歴があることが確認されてはいる。野﨑さんには自殺願望があったという旨を主張しているとみられる。
野﨑さんが死亡した当日 午後5時すぎから“添い寝”
そして弁護人は、いよいよ野﨑さんが死亡した当日、2018年5月24日の行動について訊ねていく。
その日は午前9時ごろに起床し、野﨑さんと外出、正午ごろに帰宅したという須藤被告。その後は、野﨑さんを自宅に残す形で、野﨑さんの家政婦・Tさんと、スーパーマーケットに買い物に出かけたという。買い物から帰宅すると、Tさんが昼食のしゃぶしゃぶを作ってくれた。
弁護人「誰と一緒に食べました?」
被告 「社長(野﨑さん)です」
弁護人「その時、Tさんは?」
被告 「いなくて、どこかに行っていました」
弁護人「昼食を食べた後は?」
被告 「1階にいました」
弁護人「野﨑さんは?」
被告 「さっさと2階に上がっていきました」
質問が、「被告が野﨑さんに覚醒剤を摂取させた」と検察側が主張している午後4時50分頃から午後8時頃についてに入った。この時間帯に、家政婦のTさんが外出していた点は、被告側と検察側で大きな争いはない。
被告 「午後5時くらいに社長が1階に下りてきて、(野﨑さんと一緒に)2階に上がりました」
「(野﨑さんは)『添い寝をしよう』と言ってきました」
「(被告自身は)枕を背もたれにして腰かけながらタブレットを見て、社長はその隣で寝ていました」
弁護人「タブレットで何を?」
被告 「映画を見たりYouTubeを見たり」
野﨑さんは30分ほどで目を覚まし、大相撲のテレビ中継が終わった午後6時頃に、“1階で夕食を食べよう”と言ってきたという。
弁護人「どういうふうに1階に下りた?」
被告 「社長が先に下りて、(野﨑さんの)いつものルーティーンなんですけど、(屋外にある)イブちゃんのお墓にお参りしてから自宅に入った」
“野﨑さんは夕食のうどんに手を付けなかった”
テーブルの上には、家政婦のTさんが残していた “食べてください” という置き手紙があり、うどんが用意されていたという。被告は “野﨑さんは、ビールは飲んだが、うどんを食べようとはしなかった” と語った。
被告「今まで全く手をつけないことはなかった。『食べないの?』と言いました。(野﨑さんは)『食欲がない』と」
「お菓子を食べてました。ホテルにある豆菓子」
しかし、野﨑さんの20年来の交際女性は、証人尋問で “野﨑さんはうどんには飽きていたので手を付けないこともあった” という旨を証言した。そのことについて問われると…。
被告 「(その証言には)びっくりした。私と女性とはルーティーンが違う。その女性は、食後に性行為をしてたと言っていたので、そういう時は(野﨑さんは)食べないのかなと思った」
弁護人「夕食を終えたのは?」
被告 「(午後)6時半ぐらいです」
何度も2階に上がったのは “目薬さしてあげたり、バスローブを探しに…”
須藤被告のスマートフォンに入っていたアプリ「ヘルスケア」の解析によれば、午後6時半頃から午後8時頃までの間に、7回もの「階層上昇」が確認されている。1階と2階との間の移動を繰り返していたとみられているが、被告はまず、午後6時50分頃の階層上昇について、“2階で野﨑さんに目薬をさしてあげた”と説明した。
そして、その後1階に下りてシャワーを浴びようとしたが、バスローブがなかったため、それを探しに再び2階に上がったとも述べた。
その他の階層上昇について問われると、“ハンドクリームなど保湿ケア用品を取りに行ったり、タブレットや充電ケーブルを取りに行ったりした可能性が高いと思う”という旨を供述した。
この「多数回の階層上昇」については、被告の記憶があいまいで、それまでの供述と比べると、やや具体性を欠いている印象は受けた。
午後8時すぎに家政婦のTさんが帰宅した後は、被告はTさんと1階でテレビを見て過ごし、午後10時半すぎに“野﨑さんが死亡しているのを覚知”するに至ったという…。
家政婦のTさんが捜査の中で供述した、2階から聞こえてきた“音”については、こう語った。
被告 「8時半ぐらいに、ドンドンドンと2階で社長(野﨑さん)が歩く音が聞こえました」
弁護人「足音だと思ったのはどうして?」
被告 「社長はつっかかって歩くから、社長が歩くと、社長のリズムでドンドンドンドンと音がするのが普通」
「夜に音がするのは日常茶飯事なので、トイレ行っているんだなと思いました」
事件性自体が争点 注目される検察側の尋問
被告人質問1日目は、時間を超過し午後5時20分頃に終了。次回11月11日(月)の被告人質問も、再び弁護人の尋問から行われることになった。事件性そのものが争点となっている中、今度は検察官が、被告の主張の矛盾をどのように突いていくのかが注目される。
(MBS報道センター 松本陸・大里奈々)
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