ピンが倒れる音と投げた感覚を頼りにストライクを連発する“全盲のボウリング選手”青松利明さん。視覚特別支援学校で教壇に立つ傍ら、視覚障害者ボウリングの世界選手権で銅メダルを獲得。「社会と繋がるツール」だと語るボウリングの魅力を喜入友浩キャスターが取材しました。

ピンに当たったときの音、投げた感覚で…見えなくてもストライク

家族とともにボウリングを楽しむ、青松利明さん(54)。

青松利明さん
「私は全盲なので全く見えていません。ボールがピンに当たったときの、あとは自分が投げた感覚で、ピンがどんなふうに倒れたのかは、ある程度想像がつきます」

――ピンの残り方はどう推測されますか?

鈍い音がしたので、多分1番ピンに横からではなく正面から当たったんじゃないかなと思っています。そういう場合は、少し右側のピンが残ってるかなと思っています」

投げる方向は“ガイドレール”と呼ばれる手すりで確認しています。

青松さん
「そっと触れながら進んでいくだけですが、これがないと安心して投げることができないです」

中学生のときに参加したイベントがきっかけで始めたボウリング。ベストスコアは200点を超えます。

青松さん
「他のことは全然何も考えずにボールをピンに当てることだけを考えられる時間なので、とても爽快な感じです」

教師とボウラーの二刀流 自らの社会経験を生徒へ

視覚に障害のある生徒が通う都内の特別支援学校で、青松さんは社会科の教師をしています。

青松さんは生まれつきの目の病気で、中学生のときに完全に視力を失いました。

青松さん
「見えている状態というのがよく分からないので、これを障害と思うかというと、特に思っていない。人それぞれ得意・不得意とかそういうものもいろいろあると思うんですけど、それと同じように社会の中で適応してくかということは、常に考える必要があると思っています」

大学卒業後は一般企業でシステムエンジニアをしていました。教師になろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

青松さん
「アメリカに留学したり、就職もして一般企業で働いて、それまでの経験がいっぱいあるので、これを後輩たちに伝えて、社会の中で活躍できる視覚障害者をたくさん育てたいというふうに思うようになって」

そして、教壇に立つ傍らボウリングの腕も磨き、視覚障害者ボウリングの世界選手権で銅メダルを獲得。そんな青松先生に生徒は…

生徒
「青松先生みたいにいろいろこなして、自分の意見もしっかり言えて、持っている大人になりたい」

視覚障害者ボウリングが“ひとつの居場所”に 「社会参加のときに一つのツールとして使えるスポーツかな」

9月に行われた視覚障害者ボウリング全日本選手権。目が見えない、もしくは見えにくい選手44名が参加しました。22年前、青松さんが自ら立ち上げた大会です。

青松さん
「始めたころは無我夢中で始めたのであんまり覚えていない。だんだんこの視覚障害者のボウリングが広まってきているなと感じています」

大会では障害の程度によってクラスが分かれていて、どのピンが残っているのかなどは審判が「残っているのは3・6・10です」と、声でサポートします。それ以外は一般のボウリングと同じです。

運営を担う青松さんは、音を頼りに大会の様子を把握します。

今年で21回目を迎える大会も無事終了。大会後、青松さんは、大会に参加していた7年前に卒業した教え子のところへ。青松さんがきっかけでボウリングを始めたそうです。

――ボウリングはご自身にとって今、どんなものに?

青松さんの教え子 島村晴彦さん(24)
「先生ももちろんですし、練習のチームのみんなで練習して、そこで知り合いも増えて仲良くなって、そういう意味である種ひとつの自分の居場所になりつつあるのかなと」

青松さんはボウリングの魅力についてこう話します。

青松さん
「性別とか年齢とか障害に関わらず誰でもできるスポーツですし、社会に参加していくときに一つのツールとして使えるいいスポーツかなと思っています」

そんなボウリングと出会って40年。

青松さん
「いつもドキドキするスポーツで楽しいです。いつまででも続けられると思います」

視覚障害があっても少しのサポートがあれば…スポーツだけでなく社会でも

上村彩子キャスター:
音であれだけ細かく聞き分けているのはすごいですね。

喜入友浩キャスター:
ピン1本1本の音が聞こえるともお話されていました。

大会では健常者と視覚障害者がチームを組む団体戦も行われました。その様子を見ていると同じレーンで、同じボールで、同じピンに向かって投げる。何か違いがあるとすれば、声や手すりがあるだけ。

上村キャスター:
視覚障害がある方でも、手すりなど少しのサポートがあればいろんなスポーツに挑戦できるのだと感じました。

喜入キャスター:
それはスポーツに限った話ではなく社会の中でも応用できる、非常に可能性を感じる取材でした。

<制作スタッフ>
カメラ 小野山寛之
VE 山西夏樹
協力 吉田海七
編集 市嶋洸太郎
企画・取材・構成 喜入友浩(TBSアナウンサー)

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