「103万円の壁の引き上げ」の議論がいま、政治の中心となっています。そもそもこの「103万円の壁」とはどういうものなのか、そしてどうすべきという議論が行われているのでしょうか。石川博康ファイナンシャルプランナーの解説です。
103万円の壁とは「所得税が課税される年収ライン」のことです。年収が103万円を超えると、超えた額に対して所得税が課税されます。
例えば、年収が110万円なら、110万円ー103万円=7万円に対して所得税がかかります。7万円に対しては5%の所得税がかかりるので、3500円が課税されます。
ちなみに103万円という数字は、所得税の「基礎控除48万円」と「給与所得控除55万円」の合計額です。
さらに、学生やフリーターなどが年収103万円を超えると、親などの手取りが減ってしまいます。
これは子などの年収が103万円を超えると、税制上、親や配偶者の扶養から外れるためです。扶養から外れると親などの扶養者は扶養控除が適用されず、所得税や住民税の負担が増えます。
つまり、103万円を1円でも超えてしまうと、「所得税の課税」と「扶養控除の適用外」で税負担が増え、かえって収入が減ってしまうことから「壁」と呼ばれているのです。
そんな「103万円の壁」には問題点があります。
1つは「働き控え」を促してしまうことです。
年末になると、税負担を避けようと103万円を超えないように労働時間を調整する従業員が出てきます。従業員が休みを取る一方で、店側が人手不足に直面してしまう可能性もあります。つまり「103万円の壁」の影響で「働き控え」が発生し、国全体の生産性も落ちてしまうおそれがあるのです。
もう1つは「103万円」の金額です。
基礎控除と給与所得控除の総額は、生活を維持するための最低限必要なお金とも考えられます。
実は「基礎控除」と「給与所得控除」の合計額は1995年以降、103万円に据え置かれたままです。
30年近く据え置かれている一方、このところの物価高を踏まえると、控除額を引き上げるべきでは?という議論もあります。
また時給が上昇する現在、今までより短い労働時間で103万円の壁に到達してしまうため、労働者の働く時間がさらに減っていしまい、労働力不足に拍車がかかるおそれも出てきます。
そんな「103万円の壁」に切り込んだのが国民民主党で、上限を178万円に引き上げると主張しています。
178万円の根拠ですが、1995年と比較して、いまの最低賃金が1.73倍になっていることから、控除合計額も103万円×1.73=178万円に引き上げるべきとしています。
ただ、壁を178万円に引き上げるにも問題点があります。
1つは「税の減収」です。
政府の試算によると、仮に所得税と住民税の基礎控除を178万円に引き上げた場合、国と地方の合計で年間約7兆6000億円の税収減になるといいます。少子化対策や防衛力強化などでさらなる財源確保が必要ななか、7兆円以上の税収減をどのように補うかが大きな壁となります。
もう1つが「別の壁の存在」です。
103万円の壁は「税制上の壁」といえますが、これとは別に「社会保険上の壁」も存在します。
年収が130万円を超えると、親や配偶者の扶養から外れ、これまで払っていなかった社会保険の保険料を自分で払うことになります。
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