ひとつひとつ手作業で仕上げられ、ひと月に30本だけの限定生産。品質の高さで評価を受け、取引先は中国やフランス、ドイツなど世界の40から50か国におよぶ、沖縄生まれの木管楽器があります。「クラリネット」です。
新作クラリネットで世界展開を目指すのは、南城市に工房を構える木管楽器製造メーカー。開発の舞台裏を取材しました。
サトウキビ畑の広がる先にある一棟の工房、「美ら音工房ヨーゼフ」。2007年から、南城市でオーボエやクラリネットなど木管楽器を製造しています。
社長の仲村幸夫さんは那覇市出身。ドイツでプロのオーボエ奏者としてキャリアを積んだあと日本に帰国し、オーボエ製作の勉強に取りかかりました。演奏家から楽器職人に転向した理由とは?
♪美ら音工房ヨーゼフ 仲村幸夫社長
「既存の楽器じゃ満足できなかったのがまずひとつ。そしてこの小さな島の沖縄から世界に通用する一番のものを作りたい」
演奏家の経験を生かし、理想の音作りに邁進してきた仲村さん。今特に開発に力を注いでいるクラリネットは、市場がオーボエの10倍あるともいわれています。
♪美ら音工房ヨーゼフ 仲村幸夫社長(2018年の取材当時)
「沖縄の産業をもっと力強く前に進めるためには、クラリネットの市場に参入していかないといけないと思う」
ある日、クラリネット奏者のディルク・アルトマンさんが工房を訪ねてきました。ドイツの名門、シュトゥットガルト放送交響楽団で、首席奏者を長年務めています。訪問の目的は、新作クラリネットの開発サポートです。
アルトマンさんが「ヨーゼフ」のクラリネットで「C♭」の音を出すと…
♪製造部組立課 大浜敬生チーフ
「…今、低いですね」
楽器の構造上、不安定な音が存在するクラリネット。通常は演奏家が演奏方法を工夫してカバーしますが、ヨーゼフの場合は…穴の大きさなど、楽器の構造を変えてしまいます。
♪美ら音工房ヨーゼフ 仲村幸夫社長
「(アルトマンさんが吹いたクラリネットは)ちょっと下の音が出るんですよ、ウーって。今でも十分に出るんだけど、もっと簡単に吹けるといい。変えてみようって」
♪製造部組立課 大浜敬生チーフ
「音に影響するパーツの寸法を今から変えます。もう毎回、微調整微調整ですね」
他のメーカーと比較すると、穴の数や、金属パーツの配置などが大きく異なります。
音程や音の響き、楽器の操作性を追求した結果、ヨーゼフは独特な構造にたどり着きました。
♪美ら音工房ヨーゼフ 仲村幸夫社長
「良くなるか悪くなるか、わからないね。やってみないとわからないんですよ」
調整後、アルトマンさんが試し吹きをすると…
♪美ら音工房ヨーゼフ 仲村幸夫社長
「さっきよりはいいんじゃないの」
♪シュトゥットガルト放送交響楽団 首席クラリネット奏者 ディルク・アルトマンさん
「非常に興味深いです。なぜなら、そのようなカップ、小さなパーツがクラリネットのサウンドを完全に変えるからです。そしてどこでも、下の音だけでなく上の音も聞こえます」
12年ほど前から始まった理想のクラリネット作り。200種類ほどの試作を重ね、ようやく今、完成形がみえてきました。
♪入社8年 内間さん
「何回もやり直しがあって、大変だった。やっと完成品が見られてほっとしています。苦労して、みんなで協力して作ったのが出来上がってよかった」
10月末、完成した音色を披露する機会が巡ってきました。吹奏楽部でクラリネットを演奏する生徒たちとの交流会です。
アルトマンさんが演奏を披露したあと、生徒たちにサプライズが。新作クラリネットを試せることになったんです。
♪那覇高校 吹奏楽部員 1人目
「低い音も高い音も出やすいんですけど、抵抗感がちょうど良くて、吹きやすいのに良い音が出るみたいな。すごいなんか夢のような楽器ですね」
♪2人目
「音がめっちゃ丸くて、広がりにくいというか、丸い音が出て、すごく良い音色です」
誰でも良い音が出せる、今までにない楽器を目指す仲村社長。沖縄生まれの音色で世界に挑みます。
♪美ら音工房ヨーゼフ 仲村幸夫社長
「良い音は無限ですからね。どこまでも良い音はある」
<取材MEMO>
新作クラリネット「サクラ」は年明け以降の販売を目指しています。気になるお値段は、販売中のモデルが100万円以上とのことなので、新作は同等以上となる見込みです。
この新作クラリネットの音色を聴けるチャンスは今月15日にあります。演奏はVTRにも登場したドイツの交響楽団の首席クラリネット奏者、ディルク・アルトマンさん。興味のある方は、お早めに申し込みください。(取材 比嘉チハル)
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