SBCが加盟するJNNでは、11月の第2週を「地球を笑顔にするWEEK」として、SDGsに関するニュースをお伝えしています。

今回は全身の筋肉が少しずつ動かなくなる難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症を患った佐久市の男性です。
病気で教員をやめざるを得なかった男性。
厳しい現実と向き合いながら命の尊さや互いを尊重することの大切さを伝えようと、再び子どもたちの前に立ちました。


佐久市の有坂栄康(ありさか・ひでやす)さん、52歳。

4年前から寝たきりの状態です。

今、動かせるのは、目と足の指先だけ。

声も失い、話すこともできません。

妻の麻紀(まき)さん。

ヘルパーに手を借りながらベッドへの移動や、たんの吸引など、近くで有坂さんを支えます。

「ピンポーン」

有坂さんは、体に不具合を感じたときは、わずかに動く足の指先でボタンを押して知らせます。

最初に異変に気づいたのは、8年前。

手のしびれを感じ、指がうまく使えなくなりました。

あらゆる病院を受診しましたが、一向に症状は改善しませんでした。

違和感からおよそ8か月、宣告された病名は「ALS=筋萎縮性側索硬化症」

妻・麻紀さん:
「信じられないというか認めたくないというか違うんじゃないかとか、だんだん動かなくなることが想像できなかったので、口に出しちゃうと本当になっちゃうみたいな、あんまりしゃべらなかったかな」

ALSは、神経の障害で、動かせなくなった筋肉が徐々に痩せていく病気です。

手足だけではなく、舌や呼吸に必要な喉の筋肉も。

原因は十分にわかっておらず、治す方法はまだありません。

教員だった有坂さんは、仕事を続けていましたが、話すことが難しくなり、2年前に退職。

子どもたちが大好きで仕事熱心だった有坂さんにとって、苦しい決断でした。



徐々に病気に蝕まれる体。

しかし、夫婦は現実を受け止め、前を向いてきました。

妻・麻紀さん:
「病気はなってしまったら仕方ないので、考えてどうこうなることじゃないから、そういうことは考えなくて、楽しく、楽しくいければいいかなと思って。だからいっぱい楽しいことを考える。やりたいことやってですね」(涙拭う)

有坂栄康:(自動読み上げ音声)
麻紀さんの存在は?
「人生を彩るパートナーかな」

麻紀さん:
「松代焼行ってみよう、また」
「前買ったハート形のやつ、あげちゃったから、それ買う?」

有坂さん:(音声読み上げ)
「それいいね」
「コーヒーカップもほしい」
麻紀さん:
「いっぱいあるじゃん」

有坂さんは、自身の経験から「命の大切さ」をもう一度子どもたちに伝えられないかと考えていました。

思いを実現してくれたのは、最初に担任をした長野市の東条小学校の教え子たち。

有坂さんの思いを子どもたちに届けようとプロジェクトを立ち上げ、県内各地での授業を企画したのです。

再び、教壇に立つことになった有坂さん。

この日も授業に向け資料づくりに励みます。

目線を読み取る装置で選択し、一文字、一文字入力していきます。

命の授業でどんなメッセージを届けたいですか?
有坂栄康さん:(自動読み上げ音声)
「命を大切にする。自分を大切にする。自分を磨く。自分を好きになる。同じようにまわりを大切にする」

11月1日、有坂さんは長野市の篠ノ井西中学校へ向かいました。

この日、有坂さんの思いを伝えるのは、プロジェクトのメンバーで、教え子のクレイトン美保(みほ)さんです。

クレイトン美保さん:
「先生は今はこういう病気になって体が動かない状態だけど、熱い思いを持っている。それを伝えられる術になれるのであれば、ぜひやりたいなと思って」

全校およそ550人の前での授業。

有坂さんの資料を代読するクレイトン美保さん:
「(ALSになって)最も恐ろしいことはなんだと思いますか」
「それは、会話が出来なくなることです」

人工呼吸器を付ければ、声を失う、付けなければ、生きられない。

有坂さんは2つの選択を迫られました。



一度は、呼吸器をつけないという決断をしますが、有坂さんは、「まだやりたいことがある」、「自分にできることがある」と生きることを選んだと子どもたちに伝えました。

有坂さんの資料を代読するクレイトン美保さん:
「私の命を生ききる。こんな体になっちゃったけどね。大好きではないけれど、私は私のことが好きです」
「たった一つの私の命を大切にしようと思います」

心無い言葉や冷たい視線に傷つくこともありました。

代読するクレイトン美保さん:
「邪魔だなというお店の狭い通路で向けられた冷たい視線」
「この人はしゃべれるの?大変だね。と私の目の前でヘルパーに言われたことがあります」
「相手の気持ちや立場に寄り添える大人になってください。そして、心のバリアフリーを持てる大人になってください」

授業を聞いた生徒:
「再び命の大切さを知れて良かったと思います」

授業を聞いた生徒:
「私は私が好きです、という言葉が一番響きました」

授業を聞いた生徒:
「難病になってからでないと分からないこともあるし、命の尊さを知りました。自分自身、周りに感謝しながら生きていきたいと思いました」

クレイトン美保さん:
「自分のことを大切に思えなかったりとか、自分だめだなと思っている人にどんな自分でもいいんだよっていうメッセージや、自分のこと好きでいていいんだよっていうメッセージが届けばいいかなと思っています」

有坂さんはこれからも子どもたちの前に立って、自分自身を好きでいることや命の大切さを伝えていくつもりです。

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