今週行われた衆議院議員選挙は投票率が戦後3番目に低く、有権者の関心の低さが現れた結果になりました。
選挙に関心を持つためのツールにテレビの存在もある中で、近年、テレビの選挙報道が有権者のニーズに応えていない、という声が上がっていることも事実です。
「国民が選ぶ判断材料すら消し去っている」テレビの選挙報道に怒りの声
11月1日、報道陣に笑みを浮かべた石破総理。だが、自民党は総選挙で大幅に議席を減らした。
非公認としていた、いわゆる裏金議員らを、国会の自民党会派に入るよう要請。それぞれ了承したという。
野党からは…
立憲民主党 野田佳彦 代表
「選挙が終わればみそぎが終わったみたいな意味では、反省が足りないとしか思えない」
裏金問題などで政治不信が高まっていたが、投票率は、戦後3番目に低い53.85%(小選挙区)という結果になった。
日ごろから自民党に苦言を呈している泉房穂氏。今回の選挙についても、痛烈に批判した。
前明石市長・弁護士 泉房穂氏
「裏金の非公認また戻そうとしてるけど、そんなの普通の庶民からしたら意味不明なぐらい何してんねんって話よ。裏金政治に対して、今回の選挙の結果やと思うんですよ。ところが(自民党は)そのリアリティが多分ないんですよ」
さらに、テレビの選挙報道についても怒りの声をあげている。
前明石市長・弁護士 泉房穂氏
「本当に選挙報道が変わってしまって、選挙中はおとなしくしている。使われているコメンテーターも、私なんかレアケースでしょうけど、皆さんかなり忖度された発言しておられますから」
日下部正樹キャスター
「泉さん自身は、テレビ局から何らかのそういった発言やめてくれとか、プレッシャー、圧力を感じたことありますか?」
前明石市長・弁護士 泉房穂氏
「感じていますよ。そんなのしょっちゅうですやん。テレビ出る直前に言われます。この程度で収めてくれとか、ここはちょっとやめてくださいと言われます。総選挙始まったら急にテレビの出演無くなったり、キャンセル入れられてますし、選挙の応援したら今後も出れませんよと、はっきり言われましたし」
泉氏は投票率が低かったことも、選挙報道が原因の一つだと指摘する。
前明石市長・弁護士 泉房穂氏
「メディアがちゃんと選挙期間中にもしっかりともっと報道していれば、投票率も違うと思います。選挙が始まったら逆に連日のように政治特集組んだらいいんですよ。みんなで意識を高めて、どこに投票するかは各自の判断だから、その結果、国民が選べばいいんです。国民が選ぶ判断材料すら消し去っている。最近そういうの続いてるからみんな麻痺してはるけど、今の日本の選挙期間中のテレビ報道は異常ですよ。
そもそもメディアの役割というものは権力がないメディアが、国民の立場に立って、権力批判、権力の抑制、緊張感を持つのが仕事なのに、その使命を放棄している状況だと思います」
20年で半分まで減少 テレビにおける選挙報道の変化
テレビにおける選挙報道は、どう変化していったのか。
小泉純一郎 総理(当時)
「私の方から自民党をぶち壊しますから」
2005年のいわゆる“郵政解散選挙”。劇場型政治を行い、メディア戦略に長けていた小泉純一郎元総理。
郵政民営化法の採決の日には、4時間もの特番が生放送された。
そして、公示日の8月30日夜に放送された「筑紫哲也NEWS23」では、選挙に行こうと呼びかけ、小泉氏が国会議事堂を破壊するアニメーションから始まる。
小泉氏の人気ぶりが取り上げられ、「コイズミ的?非コイズミ的?」と題された街頭インタビューを行うシリーズ企画が連日放送された。
街の人(当時)
「国を背負う人間として、(郵政民営化を)死んででもやると言ったあの一言は、僕はかっこいいなと思いますけどね」
街の人(当時)
「嫌いだよ。威張りすぎじゃないの?自分の好きなことしか言ってないでしょ」
公示日翌日のNHKと民放5社のテレビの選挙報道を記録・分析したデータ会社「エム・データ」によると、2005年の郵政解散選挙のときは、各局あわせて9時間16分7秒放送された。
メディアコンサルタントの境治氏は、選挙報道の変化をこう指摘する。
メディアコンサルタント 境治氏
「小泉さんのときなんか盛り上がりすぎだったかもしれないけど、別に選挙を盛り上げるのは全然悪いことじゃない。2010年代に入ったら(テレビの選挙報道は)選挙公示日を迎えたらもう割とハッキリね。最初に党首が何を演説したかというのは伝えるけど、それぐらいですよね」
消えた年金問題に格差の拡大。次々に変わる総理。支持率は1割台にまで下落した。
民主党へ政権が変わった2009年の選挙での放送時間は、5時間36分12秒。
その後、自民党が政権を取り返した2012年の選挙では、4時間58分29秒だった。
そして今回は、4時間31分59秒。20年で半分にまで減少した。
自民党政権が求めた放送法の「政治的公平」テレビの選挙報道が減少してきた背景
テレビの選挙報道が減少してきた背景には、何があるのか。
立教大学の砂川教授は、“政権からの圧力”が報道の萎縮を招いたと指摘する。
立教大学メディア社会学科 砂川浩慶 教授
「今G7の中で、政府が放送免許を直接出しているのは日本だけなんですよ。1953年(民法の)テレビ局が日本テレビから始まって以来、ずっとそういう意味での権力からの介入はあるわけなんですけれども、非常に目につくようになったのは、第2次安倍政権からだと思います」
砂川教授が注目したのは、第2次安倍政権下にあった2014年の出来事だ。
この年の11月18日、TBSテレビ「NEWS23」に生出演した安倍総理。3日後に衆議院解散、約1か月後に総選挙を控えたタイミングだった。
番組では景気回復の実感を有権者に問う街頭インタビューを放送した。
映像で流れた6人のうち「アベノミクスの効果はあった」と答えたのは1人だった。
安倍晋三 総理(当時)
「これは街の声ですから、皆さん選んでおられると思いますよ。もしかしたらね。事実6割の企業が賃上げしているんですから。これ全然声反映されていませんが、これおかしいじゃないですか」
この発言の2日後、自民党は在京テレビ各局に、ある文書を送っていた。
差出人は、今回非公認ながら当選した萩生田光一氏。当時の自民党筆頭副幹事長だった。
当時の文書
「これから選挙が行われるまでの期間におきましては、さらに一層の公平中立、公正な報道姿勢にご留意いただきたくお願い申し上げます」
具体的に、出演者の発言回数と時間、ゲスト出演者等の選定、街角インタビューの内容、といったものに公平中立、公正を求めるものだった。
放送法には、番組の編集にあたって「政治的に公平であること」と定められている。
山本恵里伽キャスター
「こちらの文書が各局に渡ると、具体的に何が問題になりますか?」
立教大学メディア社会学科 砂川浩慶 教授
「自分たちが考える公平公正というのを、あたかも錦の御旗のようにして言っている。こういう文書を出すことは結局、放送局の表現の自由というものをないがしろにしている。それを免許権限を持ってやっているので、非常に問題ですよね」
さらに、この政治的公平をめぐっては2016年、当時の高市総務大臣の発言が国会で議論になった。
放送法に違反した場合、総務大臣は放送事業者に業務の停止を命じることができるが、高市氏はこの「電波停止」に触れたのだ。
高市早苗 総務大臣(当時)
「電波の停止は絶対しないと、私の時にするとは思いませんけれども、何度行政の方から要請をしても、全く(放送法を)遵守しないという場合に、その可能性が全くないとは言えません」
高市氏は、放送内容が極端な場合、電波停止を命じる可能性を否定しなかった。
野党から追及された安倍総理は…
安倍晋三 総理(当時)
「高圧的に言論を弾圧しようとしているのではないかというイメージを一生懸命印象づけようとしておられると思いますが、これは全くの間違いであると申し上げておきたいと思います。安倍政権こそ、我々与党こそ、言論の自由を大切にしていると思います」
自民党政権が求めた放送法の「政治的公平」。
境氏は、テレビ局がそれを放送時間によって実現しようとする動きが強まったと指摘する。
メディアコンサルタント 境治氏
「量的な公平にこだわり始めたから、そこがもう大きな間違いに陥ったんですね。テレビ局のいろんな部署の人たちと知り合いますけど、半ば愚痴のように『秒数を揃えろと言われるんですよ』。それに対して屈したわけですね。
テレビ局の皆さんの諦め疲れ、諦め慣れ、異論を胸張って言い続けられない、環境として慣れちゃっている。変えていかなきゃいけないです。このまま放っておくと、選挙報道はYouTubeにとってかわられるし、民主主義の担い手の資格を失うということなんですよ」
国民民主党 玉木代表「少数野党になるとだんだん地上波での放送が減ってくる」
今回の選挙でPRの主戦場をSNSにし、若い世代の支持を得たのが国民民主党だ。
党公式YouTube
「国民民主党は103万円の壁を壊します!!」
「新しいiPhoneに買い替えたいなぁ。大丈夫、手取り増やすからね」
「手取りを増やす」をキーワードにし、議席数は4倍に躍進。
想定以上の得票数に、比例名簿の候補者が足りなくなり、3議席分を自民・公明・立憲民主にそれぞれ渡す事態となった。
投票1週間前に実施した調査では、特に20〜30代の若い世代が国民民主党を支持していたことがわかる。
選挙後、メディアにひっぱりだこの玉木代表。一方で、小さな政党に対する大手メディアの取り上げ方には、不満があるという。
国民民主党 玉木雄一郎 代表
「テレビに出たかったです。地上波は特に影響力があるし、新聞にも取り上げてもらいたんだけど、やっぱり少数野党になるとだんだん地上波での放送が減ってくる、そうなるとYouTubeで頑張るしかない」
党の資金が少ないため、始めたのが支援者に「切り抜き動画」の作成を呼びかける広報戦略だった。
例えば、政党がライブ配信した演説動画を、著作権フリーの素材として公開。支援者たちが そこから自由に切り抜き、数分の動画にして拡散した。
こうした取り組みがきいたのか、選挙期間中、玉木代表のYouTubeチャンネルの視聴数は小選挙区の候補者では断然トップに。国民民主党の一本当たりの動画視聴数も群を抜いていた。(ネットコミュニケーション研究所調べ)
国民民主党 玉木雄一郎 代表
「背に腹は代えられずにスタートしたのが本音なんですけど、ボランティアや支援者が勝手に作ってくれたものが非常にクオリティ高いものもあって、すごいなと思って、私が逆にリツイートやリポストしたりして、拡散していった部分もありますね。(効果は)あったと思います」
選挙選最終日のマイク納めには、東京駅に大勢の人が来ていた。
SNSでの発信をつづけてきた玉木代表が実感していることとは…
国民民主党 玉木雄一郎 代表
「面白いのは、最初私もテレビ的な発想でYouTubeを作ろうとしたんですよ。わかりやすく言って、しかもできるだけ短く、1分から3分のショート動画も上げているんですけど、意外に視聴者数が多くなるのは、例えば10分間の党首討論そのままノーカットで上げた動画とか、ノーカット版が実は一番回る」
日下部キャスター
「今後、選挙において、玉木代表はテレビをどう使おうと思いますか?」
国民民主党 玉木雄一郎 代表
「できるだけ時間をとって放送していただきたい」
TBSテレビの、第一声の報道では…
自民党の第一声
「政治と金。パーティーの収入の不記載。そういうことが二度とないように深い反省のもとに、この選挙に臨みます」
立憲民主党の第一声
「裏金議員を裏で支えるそういう政治、もう裏、裏、裏。自民党政治に決別しようじゃありませんか、皆さん」
国民民主党の第一声
「裏金問題に決着をつけることを訴えるとともに、国民の皆さんのあなたの手取りを増やす」
国民民主党 玉木雄一郎 代表
「街頭演説で、しかも各党、数十秒の声を足し合わせていったって、本当にものは伝わらないですよね。逆にああいう伝え方だから、我々も切り取られやすいようなキャッチフレーズ型政治にしようとする。
でも複雑なことは複雑にしか伝えられないことがあるし、複雑なことは時間をかけてしか伝えられないことがある」
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