福島県国見町で「企業版ふるさと納税」を活用した高規格救急車リース事業が中止となった問題。町議会の調査特別委員会(百条委)に続き、町が設置した第三者委員会の報告書が公表された。だが二つの報告書は評価に違いがあり、同制度を所管する内閣府が町に報告を求める事態に。「入札妨害の意図も疑われる」と町の責任を指摘した町議会は百条委を解散せず、事態の推移を注視している。(山田祐一郎)

◆議会の調査では「一種の背任」とまで責任を追及したのに

 9月13日、弁護士などでつくる第三者委が町に提出した報告書は、救急車の仕様書作成への助言など選定段階から関与した企業が、1社のみ応募で受託した経緯について「町は、企業の意のままに事業運営を行っていたと見られても仕方のない状況に陥った」と指摘。「官製談合」については否定した上で「手続きの公正性・透明性を欠くものだった」と結論づけた。

福島県国見町が買い取り、宇都宮市内で保管されていた救急車=昨年8月撮影、同町議会事務局提供

 この問題では、町は2022年に企業版ふるさと納税で、IT大手DMM.com(東京)とそのグループ企業から計4億3200万円の寄付を受けた。活用先として高規格救急車研究開発事業で町が救急車を所有し、民間企業を通じて他の自治体にリースする計画だった。事業は防災用食品製造会社が2022年12月に受託し、救急車12台の製造をDMM子会社に発注。寄付金が還流する構図が問題視され、事業は中止となった。  町議会は地方自治法100条に基づく調査委員会を立ち上げて調査し、今年7月に報告書を公表。百条委は「入札に見せかけた実質的な随意契約。公正であるべき業者選定が、特定企業に誘導することを視野に進められ、入札妨害の意図も疑われる」「町民全体の財産を無駄に使用した一種の背任」など厳しく指摘し、引地真町長に進退を迫った。また町議会による調査の際、町側が廃棄を理由に資料の提出を拒んだり、担当職員が「詳細は覚えていない」と繰り返すなどの対応についても批判した。  一方の第三者委は昨年6月の設置後、3人いた委員のうち2人が同年9月に相次いで辞任。新しい委員らでまとめた報告書は、受託企業が前町長時代から町とかかわりがあったと強調し、引地町長の責任に触れず、町議会や町監査委員の監視の不十分さを指摘した。

◆「第三者委の報告は町長選のタイミングに合わせて出させたのだろう」

企業版ふるさと納税を利用した事業を巡って揺れる福島県国見町役場

 二つの報告書で目立つ形となった「温度差」。両報告書の公表を受け、企業版ふるさと納税を所管する内閣府も町に対し、地域再生法に基づいて契約資料やメール、関係者の証言を報告するよう求めた。内閣府の担当者は「双方の報告書を精査し、事実関係の確認を行うため報告を求めた。今後の対応については答えられない」としている。  第三者委の「町寄り」の報告書に不信感を募らせるのは百条委委員長の佐藤孝町議だ。「引地町長は11月中に任期満了を迎える。第三者委の報告も選挙のタイミングに合わせて出させたのだろう」。町議会は百条委を解散せず、内閣府の判断を注視しているという。「背任容疑での告訴や入札妨害容疑での告発も考えている」と明かした。  第三者委と百条委で報告書の違いが鮮明になった今回の事態。龍谷大の富野暉一郎名誉教授(地方自治)は「政府が事実確認に乗り出すのは珍しいケース」と話す。「行政が設置する第三者委は、外部有識者にチェックしてもらうのが目的だが、設置する行政機関に都合のいい人たちが集まる可能性がある。一方で百条委は住民の代表である議会が調査するが、多数派である党派の意向に左右されることがある」と説明し、こう訴える。「そもそも双方は性質が違う委員会。住民が納得するには、それぞれの報告書を総括する場が必要なのではないか」 

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