夫(42)が小学校教員の妻(当時35)を殺害し、遺体を遺棄したとされる事件。
事件直前、夫婦はマンションの購入をめぐり、トラブルになっていたことが裁判で明らかになった。
毎月30万円の収入がある妻と、収入が不安定だった夫。
事件は、監視カメラのない自宅マンションの一室で起きた。
2人の間に何があったのか。
妻を殺害し遺体を放置したとして起訴
去年10月19日夜、福岡県久留米市のマンションの1室で、死後数週間が経ったと見られる女性の遺体が見つかった。
女性は、この部屋に住む小学校教員の渡辺彩さん(当時35)で、その後警察は、夫の渡辺司被告(42)を、殺人と死体遺棄の罪で逮捕・起訴した。
起訴状などによると、渡辺被告は去年9月21日、自宅マンションで、妻・彩さん(当時35)の首を何らかの方法で圧迫して殺害。10月19日に発見されるまでの約1か月間、自宅に遺体を放置したとされる。
「私は妻を殺害していません」
福岡地裁で行われた裁判員裁判の初公判で、渡辺被告は、死体遺棄の罪は認めたものの、殺人罪については否認した。
裁判長:「起訴状の内容で間違っているところはありますか?」
渡辺司被告:「私は妻を殺害していません」
裁判長:「死体遺棄についてはどうですか」
被告:「間違いありません」
家族4人での生活 夫婦の収入格差
渡辺被告と彩さんは約15年前、彩さんが20歳の大学生、渡辺被告が26歳の時に出会った。
2013年に結婚。
事件当時は9歳の長女と5歳の長男と4人で暮らしていた。
検察側の冒頭陳述によると、彩さんは福岡県久留米市内の小学校に勤務し、月に約30万円の収入があった。
当時は6年生の担任を受け持ち、「優秀で子供思い」などと校長や同僚からの信頼も厚かったという。
一方、渡辺被告は2006年、知人とウェブ広告関連の会社を起業した。
しかし2021年9月からは定収がなく、消費者金融から400万円以上の借金があったほか、実母からも1180万円を借りていた。妻の彩さんには「5000万円超の投資信託がある」と嘘を言っていたという。
新築マンション購入めぐりトラブル
事件がおきた去年9月、夫婦は新築マンションのギャラリーを訪れ、販売価格4790万円の部屋の購入を決めた。
2400万円を彩さん名義でローンを組み、残りの2390万円は渡辺被告が支払うことにした。2390円のうち470万円を手付金として振り込むことになっていたが、渡辺被告が手付金を支払うことはなかった。
9月10日
夫婦は15日までに手付金を支払い、17日に売買契約を締結するとマンション販売会社の従業員に話す
9月15日
渡辺被告は手付金の支払いをせず
従業員からの連絡に「振り込み手続きはしたがミスで入金が19日になる」と嘘をつき「妻には黙っていてほしい」などと伝える
9月17日
夫婦はギャラリーで売買契約書に署名
9月19日
渡辺被告は手付金を振り込まず
「手続きはしたが送金限度額を超えたたため送金できない。20日午前10時までには振り込む。妻には言わないでほしい」などと従業員に伝える
9月20日
渡辺被告は手付金を振り込まず
マンション販売会社の従業員が彩さんに連絡
手付金が降り込まれていないことを伝える
彩さんが電話で渡辺被告を叱責
事件が起きた9月21日 渡辺被告の行動
そして9月21日、事件は起きた。
午前3時46分ごろ、実家にいた渡辺被告は、彩さんから電話で速やかに帰宅するように言われマンションに帰宅した。
午前7時55分、子ども2人を連れて外出。
午前8時12分に彩さんの勤務先の小学校に電話を入れ「病気のため2日間ほど休む」と伝えている。
その後も「(彩さんが)精神的に病んでおり休ませる」などと嘘の連絡をし、彩さんの家族にも同様の嘘を言っていたという。
9月22日以降は実家やビジネスホテルに宿泊していた。
渡辺被告の供述調書によると、「においがしたので、子供とホテルに滞在することにした」。
1か月後、心配した彩さんの両親と弟たちが遺体を発見
およそ1か月が経った10月19日午後10時前、彩さんと連絡がつかないことを心配した彩さんの両親と2人の弟が渡辺被告に連絡し、自宅を訪問。
渡辺被告は彩さんの家族がマンションのエントランスを通り部屋に入る前に、彩さんが死亡したことを打ち明けた。
(彩さんの父親の供述調書より)
遺体を発見した日は、車の中に司さん(渡辺被告)がいて、彩のことを尋ねると言葉を濁し、要領を得ないことを話していました。
部屋に向かっているとき、司さんから「彩は死にました」と聞きました。
弟2人が鍵を取り上げて急いで部屋に行くと、ベッド上でなくなっている彩を発見しました。
「何でここまでほったらかしていたのか」と尋ねると「子供たちになんて言ったらいいか分からなかった」「9月21日にビニールで首を吊って自殺しました」と言われました。
「どこでね」と尋ねると黙り込み「すみません」と小さな声でずっと言っていました。
空白の4時間 何があったのか 検察の主張
検察側は、21日未明に自宅に帰宅して翌日午前7時55分に出かけるまでの約4時間の間に、渡辺被告が何らかの方法で彩さんの首を圧迫し殺害したうえ、殺人の発覚を恐れ通報せず遺体を放置したと主張している。
空白の4時間 渡辺被告の主張
弁護側の冒頭陳述や渡辺被告の証言によると、妻の彩さんはマンションに帰宅した渡辺被告を正座させ罵倒した後、台所から持ち出した包丁の柄で床についていた渡辺被告の右手の甲を強打。
全治2か月以上の粉砕骨折を負わせた。
その後も彩さんから手付金を用意できないことなどを罵られ、渡辺被告は我慢できず彩さんの頬を平手で殴った。
手を出したことで彩さんが離婚を切り出してくると考え、彩さんを無職に追い込み、親権や慰謝料で有利な立場に立とうと、彩さんが8年前に教員をしながら副業をしていたことについて話したという。
「お前の仕事なんて簡単に辞めさせられる。副業のことを勤務先の小学校に言う」
この口論の最中、渡辺被告はたばこを吸うために約30分、口論をしていたリビングから離れた。
そして、午前5時頃、リビングに戻ってくると彩さんが土下座のような状態で倒れているところを発見した。
彩さんは失禁していたうえ、顔は白く、叩いても応答がなかったことから死亡していると思った、と話した。
弁護側は、「自殺の可能性が否定できない」と主張している。
(弁護側の冒頭陳述)
被告人は、被害者に対し、殺意をもったこと、及び、その頚部を圧迫して窒息により殺害したこともない。
被害者は、自分で自分の首を紐状にしたビニール製の買物袋で強ぐ絞めた際に輪状軟骨が骨折して気道閉塞により窒息した自殺である。
異なる法医学者の見解
彩さんの死因をめぐっては、法廷に出廷した法医学者の見解も割れている。
検察側の証人として出廷した解剖医は、「自殺の可能性は低い」と証言し、弁護側の証人として出廷した法医学の専門家は、「自殺した可能性が高い」と証言した。
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