8月18日までの3日間、山口県上関町の離島・祝島では、歴史ある神事「神舞」がありました。4年に一度の祭りですが、前回の2020年は新型コロナの感染拡大で中止に。「島が沈む」と言われるほど多くの人が集まりますが8年ぶりの今回、瀬戸内の小さな島は久しぶりのにぎわいを見せました。1100年以上継がれてきたこの神事。高齢化が進む中で、次の世代につなごうと、24歳の若者がかつて父も務めた大役を全うしました。島の、特別な日を見つめました。

8年ぶり「神舞」の初日

8月16日。上関町祝島は、大切な日を迎えました。「神舞」の初日です。

出田涼也さん(24)
「とうとう来たなっていう感じがして、朝早く起きて、島の人たちみんなが準備しているのを見たら、やっと本番が来たんだなって感じがすごくしました。緊張はあまりないですね、楽しみだなという方が大きいですね」

広島県に住む大学院生、出田涼也さん24歳です。神舞で、「櫂伝馬」と呼ばれる船の上で勇壮な舞を披露する、剣櫂の大役を務めます。朝早くから化粧をし、伝統の黒い衣装に袖を通します。

父も務めた大役に挑む

涼也さんは、祖父母が祝島に暮らしていて、子どものころからよく島に足を運んでいました。広島県で生まれ育ちましたが、祝島を地元のように感じています。そして、父の伸也さんは、涼也さんが今回務める剣櫂を1980年に務めました。

父の話を聞いて憧れていたという涼也さん。6月中旬から週末を中心に島へと渡り、稽古を重ねてきました。孫のように温かく接して、細かいところまでアドバイスをしてくれる島の人。そして、この日を楽しみにしてくれている家族。期待してくれています。

1980年に剣櫂を務めた父・出田伸也さん(59)
「島が大好きで、いつも釣りに帰ったりとか、祝島愛の強い子なので、こういう役を任されて、本人もすごい喜んでいると思いますし、私も誇りに思っております」

祖父・出田資さん(88)
「かっこいいなって思った。みんな期待しとるんだから、頑張れよ」

「島が沈む」とも言われるにぎわい

「ただいま~」「お帰り~」お昼前には島に続々と人がやってきました。

中澤樹記者
「『神舞』があるこの日ばかりは、祝島に多くの人が訪れます。そのため、『島が沈む』とも言われています。この光景も実に8年ぶりです」

大勢の人が視線を向ける先は、海。神舞の始まりを告げる入船神事です。青い穏やかな海を優雅に走る櫂伝馬からは、漕ぎ手の男たちによる威勢のいい声が聞こえてきます。

そして、涼也さんの舞。堂々とした舞は訪れた人を魅了しました。波止場では、父の伸也さんが、息子の晴れ舞台を目に焼き付けていました。親子2代で神舞の花形。息子も立派に務めてくれました。

父・伸也さん
「本番で一番いい踊りができたと思います。まずは踊り終えて、安心しています。僕もそこで、一生懸命踊らないといけないという使命感もありましたし、子ども(涼也さん)も準備段階から一生懸命やったと、頑張って踊ると意気込みを感じていましたので、ほんとうにその成果がでて、よくきっちりと踊れたと思います」

1000年以上続く大分との縁

この祭りの起源は、1100年以上も前の西暦886年にさかのぼります。今の大分県国東市の人たちが嵐で祝島に漂着し、もてなした島の人は農耕などを教わると、しだいに島は豊かになった。その縁を大切にしたことが、神舞の始まりと伝えられています。4年に1度、大分県の伊美別宮社から神職を招きます。

しかし、新型コロナの感染拡大で前回の2020年は中止でした。今回は8年ぶりです。その間にも人は減り、高齢化も進みました。8年前は、5日間だった日程が今回は3日間に短縮しなければなりませんでした。それでも開催にこぎつけられたのは、祝島の人たちも大分の人たちもこの縁を大切に思い続けているからです。

大分県から
「神舞をきっかけに、ずーっとお付き合いさせていただいているご家族さんもいらっしゃいますし、すごくいい絆というかですね。神舞は絶やしてはならないなと思っています」

祭りのフィナーレ「出船神事」

最終日の18日。大分からの一行を送り出す日です。神職らが乗った船とともに、櫂伝馬は海へと、こぎ出しました。出船神事です。入船神事と同じく、涼也さんの姿があります。力強く披露する最後の舞。子どもの頃から憧れ続けた伝統の大役を全うしました。神事を終えた涼也さんにねぎらいの言葉がかけられます。

祝島の女性
「涼くんおつかれ!」
涼也さん
「あざす!」

島の仲間に囲まれ、笑みがこぼれます。

かつて剣櫂を務めた祝島の男性
「あとは継承せんといけんよ!もうわしは教えることないからね!」
涼也さん
「ありがとう!」

4年後へ思いをつなぐ

達成感にあふれる忘れられない夏となりました。

涼也さん
「ずっと昔からやりたいと思っていた剣櫂で、大好きな祝島の伝統的な行事に参加することができて、今はすごく、うれしい気持ちです。就職で来年から大阪に行くんですけど、その前に、最高の思い出ができました」
祖父・資さん
「孫は宝ですよ。『よく頑張ったの』って言ってやりたいです。あっぱれです」

島を愛する若者がつないだ神舞は、また4年後の夏へ受け継がれます。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。