有期雇用の契約期間が通算5年を超えたのに無期雇用に転換せず、雇い止めされたとして、羽衣(はごろも)国際大(堺市)の元専任講師の女性(48)が学校法人に地位確認を求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷(岡正晶裁判長)は3日、双方の意見を聞く弁論を開いた。無期転換について、女性側は「認められるべきだ」と主張し、学校法人側は反論して結審した。判決は31日。

最高裁判所

 弁論は二審の結論を見直す際に必要な手続き。無期転換を認め、雇い止めを無効とし、学校法人に未払い賃金の支払いを命じた二審判決が見直される可能性がある。

◆5年を超えて雇用されたのに「無期雇用転換」されず

 労働契約法は、通算5年を超えて有期雇用された労働者が希望すれば無期雇用に転換できるとする「無期転換ルール」を定める。一方、大学教員の任期を定める任期法は「多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職」について5年を10年に延長する特例を設けている。  争点は、介護福祉士の養成課程を担当していた女性がこの職に該当するかどうか。最高裁がこの点について判断を示すのは初めて。  一、二審判決によると、女性は2013年4月に専任講師となり、18年11月に無期転換を申し入れたが大学側が10年特例を理由に応じず、19年3月に雇い止めされた。  一審大阪地裁は女性の訴えを棄却。二審大阪高裁は、女性の業務内容を「研究の側面は乏しく、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当しない」と判断し、女性逆転勝訴の判決を言い渡した。  最高裁の弁論で女性側は「不意打ちのような任期法の適用が認められるのであれば、安心して働くことはできない」と訴え、学校法人側は「各大学の裁量の範疇(はんちゅう)だ」と反論した。弁論後、女性は取材に「任期法は限られた人にだけ適用される、という判断をいただきたい」と話した。   ◇   ◇   ◇

◆雇用安定のための「無期転換ルール」無視が横行

 無期転換ルールは、非正規労働者の雇用を安定させるため、2013年4月施行の改正労働契約法に設けられた。一方、無期転換が認められず雇い止めされた大学教員が訴訟を起こすケースが各地で相次ぐ。識者は「大学側も資金難で、雇い止めが常態化している。国が予算措置を講じないとジリ貧のままだ」と指摘する。

最高裁の弁論後、支援者らが開いた報告会に参加した元専任講師=3日、東京都千代田区で

 「教師としてきちんと働き、貢献してきたというプライドがある。納得できない。すごく雑に扱われていることに怒りがある」。通算8年勤めた慶応大を雇い止めされた50代の男性はこう憤る。  14年度から同大の非常勤講師として週に1コマ、一般教養科目を担当。5年を超えた19年度に無期への転換を申し入れた。大学側は任期法の10年特例を理由に認めず、21年11月に「翌年度の契約を更新しない」とメールで通知した。  任期法が特例の対象とするのは「多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職」。男性は「研究者として雇われたわけではない」と主張。大学が、任期を定めて任用することについて男性の同意を得ることも行っていないなどとして地位確認を求める訴訟を起こした。一審横浜地裁は、男性が慶応大を所属先として科研費の支給を受けていたことなどから請求を棄却。現在は東京高裁で係争中だ。

◆同様の訴訟は東海大、信州大などでも

 男性が加入する首都圏大学非常勤講師組合(横浜市)の佐々木信吾書記長は「任期法の安易な適用は法の趣旨に反する。やめるべきだ」と強調する。同様の訴訟は東海大、信州大などでも起きている。

大学側からメールで届いた雇い止めの通知の文書を手にする男性=1日、東京都千代田区で

 研究者のキャリア問題に詳しい一般社団法人「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表理事によると、10年特例について、5年では成果の評価が難しい研究分野もあるため「妥当」とする見方もある一方、無期転換権の先送りだという批判も根強い。榎木さんは「どこの大学も資金が足りず、無期雇用はリスクと捉えている。大学が安定的に人を雇えるような予算措置を国が講じないと、根本的な解決にはならない」と話した。(三宅千智) 

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