「罪を見つめる時間を」裁判官が男に語りかけた。

裁判官が判決の後に被告に語り掛けることは「説諭」とも呼ばれ、多くの裁判で見られる光景だ。


しかし「罪から目をそむけている」といった言葉を使うことは、あまりない。

その異例の説諭の中、被告の75歳の男は、だまってその話を聞いていた。

75歳の男は、去年9月、入院していた病院でリハビリを担当の23歳の理学療法士に出会う。男はその理学療法士に対する不同意わいせつの罪に問われ、山形地方裁判所で公判が行われていた。

きょうは判決公判。

くすんだ緑色のジャケット、白色のシャツにグレーのネクタイ。小柄でやせている白髪まじりの男は、証言台の椅子に座っている。少し背筋を伸ばして。

「主文 被告人を懲役1年6か月とする。刑の執行を4年間猶予する」

有罪判決が言い渡された。そして改めて犯行の内容が明かされた。

裁判官は「太ももをなでる、胸をさわる」などの行為を認定した旨を伝える。そして「陰部をこするようにさわる」などの行為があったことが判決の理由だとも述べた。


また、被害者が「何してるんですか」などと注意をしたにもかかわらず、行為を繰り返したことに触れ「このくらいなら怒られないだろうという行為は身勝手で執拗」と指摘した。

男は身動きせずに聞いている。

すると裁判官が「間違っていたらすみません」こう添えた上で話し出す。

「裁判を通して、なぜ罪を犯したのか十分に答えられていないように感じた」

裁判官がこのように諭すのは異例だ。

さらに「罪から目をそむけている、見ないようにしている印象を受けた」と続けた。

そして最後に、裁判官としての願いを口にした。

「罪を見つめる時間とするため、執行猶予期間を長めにしました。被害者の思いに向き合うことは必要。最低限の責任です」

その言葉を聞くと、男はゆっくりと立ち上がって頭を下げた。「どうもすみませんでした」

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