自民党・新総裁が石破茂元幹事長に決まりました。「永遠の"次の総理"」と言われ続け、5度目の挑戦で悲願の選出となった石破氏。ただ、2位の高市氏との得票差はわずかで、今後の党運営にも懸念が残ります。組閣、そして総選挙の見通しは?政治とカネ・経済政策・安全保障はどうなるのか?現代政治分析を専門とする法政大学大学院・白鳥浩教授に聞きました。(聞き手:川戸恵子 収録・放送:9月27日)
12年ぶりの「逆転勝利」 ポイントは「小泉氏が決戦投票に残るか」だった
ーー9人が立候補した異例の総裁選が終わり、新総裁は石破さんに決まりました。第1回投票を見てみると、下馬評を覆し党員票を最も多くとったのは高市さん。次が石破さんで、小泉さんは3位に沈みました。
白鳥浩法政大学大学院教授:
今回の一つのポイントは「小泉さんが決選投票に残るか残らないか」だった、と言えると思うんです。小泉さんの失速は、討論番組に出たときにあまり上手く応答ができなかったのもさることながら、訴えた政策の選択的夫婦別姓や解雇規制の見直しなどがなかなか年配の方や地方の方……党員党友には受け入れづらい。これで決選投票に行けなくなった。
その小泉さんの減り分がどこに行ったかというと、高市さんに行ってるんです。高市さんは特に党員・党友票が伸びている。1位が高市さん、2位が石破さんと言うことで決選投票になった。ただ決選投票では石破さんが勝ってるんですよね。1位と2位がひっくり返るのは実は12年ぶり。その2012年は石破さんがトップ、2位が安倍晋三さんだったんですが安倍さんが決選投票で石破さんを破った。意趣返しってわけではないですけれども、12年ぶりに同じことが起こってしまったということなんですね。
決選のキーは“岸田派”でも…「派閥なき」だからこそ石破氏が勝機掴む
白鳥浩 教授:
みんな小泉さんが残ると思っていたところが残らなかった。「小泉なき決選投票」になってしまった中で、キーになったのはおそらく岸田派なんだろうと思うんですね。林さんや上川さんの票がおそらく石破さんの方に動いている。というのは、麻生さんが高市さんを支持すると表明されましたよね。それに対して麻生さんとあまり関係が良くない岸田さんがちょっとどうかなっていう感じになったところがあるんではないかと思うわけです。
もう一つは、高市さんは少し対外的に刺激の強い発言というのがあった。これはなかなか難しいところがあって、せっかくここのところ日韓関係も良くなってきているのにそれをもう無にするのか?という意味も込めて石破さんに(票が)行ったんじゃないかという気もするわけです。
ーー派閥がなくなったと思いきや、逆に最後は岸田さんや麻生さんが出てきたと。
白鳥浩 教授:
「派閥なき総裁選」から始まって「派閥復活の総裁選」で終わったと言ってもいいと思うんですね。決選投票を見ると明らかに派閥単位で行動している。そうでなければこれだけ大きな票の動きは無いはずなんです。「派閥なき総裁選」で確かに9人が出て、色々な論戦が行われて、若い方も出た。それは非常によかったと思うんです。ところが最終的には派閥単位で投票して派閥復活というのを少し印象づけてしまったというところがあるんじゃないかと。ただ、結果として石破さんが総裁になれているっていうのは、今回のこの総裁選の特徴の一つを如実に表している。石破さんはやっぱり派閥政治の中だと勝てないんですよ。「派閥なき」というところで決選投票まで残った。そこで勝機があった。派閥が解散してなければおそらく「石破総裁」はなかっただろうと考えられるわけですね。
“裏金”公認、経済政策、アジア版NATO…石破政権の試金石は「政治改革」
――派閥がない中での政権運営は。
白鳥浩 教授:
派閥はもう一度新しい形で、それこそ政策集団のような旧来とは違う形で徐々にグループができていくと予想できます。やっぱり何らかの集団に常にサポートされていなければ政権は非常にあやふやに、危なくなってしまう。特に石破さんの場合はかつてあった自分の水月会を解散してしまっているわけで、ここから自分を熱烈に支持してくれるグループをどう作っていくかが一つの課題なんですね。やはり多数派を形成しないと。民主主義なのでやはり数の力というのはあると思うんですよね。
石破さんが一番期待されているのは「政治とカネ」なんです。岸田政権のときに政治資金規正法を改正したわけですが、国民の多くが不十分だったと思っている。石破さんは選挙戦で「裏金議員を公認しない」と打ち上げ、投票の間のスピーチでも「ルールを守る自民党」と言っていたわけで。ある種この政治とカネについてどのようにルールを守っていくのか、あるいはどう改革していくのか、今回問われている。石破さんはずっと政治改革をやってきて「政治改革男」と言ってもいいわけですけれども、やっぱりそこが求められていてそれができなければ政権は支持を落としていくだろうと。そこが試金石になってくると思います。
――迫る総選挙で「裏金議員」を公認するかは。
白鳥浩 教授:
裏金に関係している議員をどう処遇するのかというのがこれから非常に重い問題で。ただもし公認しないと党内の亀裂が生まれてしまうんですね。高市さんと石破さんで決選投票もやって、高市さんは保守側で、石破さんはどちらかというと党内のリベラルに支えられている。それをどう融和していくかというのが大きな課題。政治とカネについて裏金議員についてどう対応するか、ある種ジレンマの中で政権ができていくというのが、今回の一つの見せ場だと思うんですね。
――高市さんに比べ「石破さんは経済政策に弱い」という声も。
白鳥浩 教授:
一つの軸は「アベノミクスを維持するかどうか」なんです。高市さんは安倍さんが最後に総裁候補として選んだ政治家ですので、基本的にはアベノミクスから動けない。むしろ今、日銀の政策も徐々にアベノミクスから離れつつあるわけですけども、それを戻そうという経済政策を持っている。それに対して石破さんはむしろ岸田さんに近い財政再建路線を取っていくんだろうと思います。ただ、例えば金利が上がっていくとサラリーマンの住宅ローンも上がっていきますし、財政再建のためには増税もうまくやっていかなきゃいけないといういくつかのハードルがある。それをどうするのかが今後の課題なんだろうと。
「防災省」創設の訴えは、非常に時代にマッチしたことを言ってるんじゃないかと思うんですよね。初めは防災「庁」から始まって、それを「省」として独立させるというのが今後どうなるのか。もう一つは外交安全保障の話もあって、今日の記者会見ではアジア版NATOとか、基地協定を見直す、自衛隊をアメリカで訓練するみたいな話も出てました。それは果たしてどこまでできるのか。言ってる手前、出来なかったらマイナスになってくる。アメリカがなんて言うのか、ですよね。
石破総裁は“連立方程式の解”…「陰の功労者」は立憲・野田新代表だった
――小泉さんの失速は立憲民主党の代表が野田さんになったのが大きいんじゃないかとも。
白鳥浩 教授:
実は今回、影の最大の功労者は野田さんなんですよ。野田さんが立憲の代表になったことが今回石破さんを自民党が選んだ最大の理由です。非常に皮肉なんですが、野田さんじゃなければ石破さんじゃなかったかもしれない。与党と野党第一党のリーダーを同じ時期に決める。しかも野党の代表の方が先に決まっているので、与党の総裁選はその影響を受けちゃうんですよね。野田さんはご存知のように非常に弁舌巧みで、自民党員の中でも安倍さんの追悼演説が「非常に良かった」と。自民党支持者の中でも「野田なら許すよ」っていう人がいるんですよね。ですから場合によっては野田さんが自民党の支持層を侵食していく可能性はある。そうなってくると「野田さんにぶつけて残れるような人」は誰かというと、同じように経験があって政策通の方ということで石破さんが選ばれたんだと私は見てるんです。これは「連立方程式の解」なんですね。
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