鉄道の赤字路線の存続や増便を株主として要望しようと、沿線自治体がJR西日本の株式を購入する動きが相次いでいる。ただ株式総数からみれば微々たる割合で、効果は限定的だ。それでも自治体が「物言う株主」を目指す理由とは。(宮畑譲)

◆300以上の議決権があれば株主提案が可能

 「貴重な地域の足が廃線になる不安はある。同じ問題意識を持つ自治体で仲間を増やし、株主提案や発言など、効果あるタイミングを考えたい」。今年7月、JR西の株式約1億円分を購入した、岡山県真庭市の担当者が「こちら特報部」の取材に答えた。

JR西日本の観光列車「はなあかり」(JR西日本ホームページより)

 真庭市には、兵庫県姫路市と岡山県新見市を結ぶ姫新(きしん)線が走る。2022年のJR西の発表で、同線の一部区間の1日あたりの輸送密度は132人とされた。国が存廃を含む議論の対象になり得るとする、1000人未満を大幅に下回る。  JR西では、保有株式100株につき1議決権が得られ、3万株以上を保有し300以上の議決権があれば、株主提案ができる。このため3万4000株を購入した。年間の配当金は約244万円を見込み、市民への運賃補助など姫新線の利用促進策に充てる。

◆京都府亀岡市も1億円分取得

 京都府亀岡市も9月の市議会定例会にJR西の株式を1億円分取得するための補正予算案を提出。こちらは、コロナ禍の影響で平日昼の便がおおむね1時間に2本から1本に減った嵯峨野線の一部区間の増便を求めていくことが目的だ。  市は07年度以降、同線の利用促進のために予算を投じてきた。施設のバリアフリー化や亀岡駅の駅舎建て替えなどに計50億円以上を負担。さらに、市内の別の駅の通路設置などに本年度から5年間で約15億円の債務負担を計上した補正予算案も今定例会に提出した。  市の担当者は「生活に支障が出ているという切実な市民の声を聞く。利用促進の予算もかけている。それでも要望に応えてもらえず、今回の動きになった。ただ株主として物言うだけでなく、利用客が増え、自然に本数が増える街づくりに取り組む必要もある」と話す。

◆専門家「JR側へのアピールにはなる」が…

 自治体の動きにJR西はどう対応するのか。広報を通じて「沿線地域の皆さまは、従来株主同様、重要なステークホルダーであることから、株主かどうかにかかわらず真摯(しんし)に対応させていただきます」と答えた。  流通経済大の板谷和也教授(交通政策)は、相次ぐ沿線自治体の株式購入について「JR側に、要望を真剣に受け止めてくれとのアピールにはなる」と受け止める。赤字路線があるような自治体の人口は少なく予算規模も大きくないとし、「利用促進でできることは限られ、鉄道事業者側は投資した分の見返りがないことは分かっている。自分たちから赤字路線の存続や増便はやらないだろう」と本音を推し量る。

◆「JRには情報開示に不透明」なのが背景か

 JR西の発行済み株式は約4億8800万株で、時価総額は1兆3000億円を超える。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は「株主総会の議決を左右するほどの株式を、自治体が保有するのは難しい。JRや他の株主の利益もある。赤字路線の廃線撤回といった大きな経営判断に影響を与えることはないだろう」とみる。  「路線存続やダイヤ改正などでJRは沿線自治体から常に要望を受ける。経営方針について何か言われるのは、本心では煩わしいだろう」とも臆測。今回の株式取得の背景には、両者のコミュニケーション不足があると指摘する。「JRには情報開示に不透明なところがあって、沿線自治体の不信感は高まりがち。株主になることで、情報開示が進むことを期待するのは理解できる」 

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