19日午前の、北海道斜里町ウトロ漁港の様子です。朝からやや強い風が吹いていました。
石黒拓海記者
「桂田容疑者の逮捕から一夜が明けました。19日の知床の海は高波や強風の影響で観光船は全便が欠航となっています」
高波などのため、19日はすべて欠航となった観光船。事故が起きたあの日も海の荒れることが予想されていました。
おととし4月、知床沖で観光船「KAZUⅠ」が沈没し、20人が死亡、6人が行方不明になった事故。
19日逮捕された「知床遊覧船」社長の桂田精一容疑者は、「KAZUⅠ」の運航管理者として、安全を確保すべき義務を怠って、船を沈没させ、乗客乗員を死亡させた業務上過失致死などの疑いが持たれています。
瀧内洋平記者(19日午後1時前)
「桂田容疑者が出てきました。これから検察庁に身柄を送られます」
国の運輸安全委員会の聞き取りに「運航については、船長の判断に任せておけばよいと思った」と話していた桂田容疑者。
逮捕の知らせに北海道十勝地方に住む乗客の家族は…。
元妻と息子が行方不明 帯広の男性
「突然、逮捕されたという連絡が来て驚いた。やっと逮捕されたな…と思った」
KAZUⅠに乗っていた当時7歳の息子と、その母親の2人は、今も行方が分かっていません。
元妻と息子が行方不明 帯広の男性
「桂田容疑者が逮捕されたという連絡が来たときに、2人に「桂田容疑者が逮捕されたよ」という報告をした」
「これだけ時間をかけてくれたのだから、しっかりやってくれると思っている。できるだけの一番重い罰を、桂田容疑者に与えてくれると思っている」
知床の観光船沈没事故は、運航会社の社長、桂田精一容疑者の逮捕、そして送検ということで、新たな局面を迎えています。
HBCはこれまで何度も桂田容疑者に取材を重ねてきました。その中で“安全管理は現場任せ”という姿勢を見せていました。
事故から2年が経った、ことし4月24日。記者が取材を申し込むも、桂田精一容疑者は応じることなく、車で走り去りました。
おととし4月、26人を乗せたまま、冷たい海に沈んだ観光船「KAZUⅠ」。運航会社の社長、桂田容疑者がカメラの前で口を開いたのは、事故から4日後のことでした。
知床遊覧船 社長 桂田精一容疑者(おととし4月の記者会見)
「大変申し訳ございませんでした」
「午後に天気が悪くなる場合は、船長判断で戻ってもらうことを長年やっている」
(Q.社長にとって「行ける」「行けない」の判断は、船長に任せていたということか?)
知床遊覧船 社長 桂田精一容疑者
「基本的に、船のどの会社も、最終的には船長判断」
(Q.船長に責任を押し付けているのでは?)
知床遊覧船 社長 桂田精一容疑者
「押し付けている、ということじゃなくて、ちょっと頼りすぎていた」
天候の悪化が予想されたにもかかわらず、出航したのは「船長の判断」と繰り返した桂田容疑者。
乗客の家族に向けた文書でも…
桂田精一容疑者(乗客家族に宛てた文書・おととし4月)
「船舶の運航等について社員に任せている部分が多く、私自身の運航管理者としての自覚も足りませんでした」
“社員に任せていた”と、同じ見解を説明していました。
さらに、責任は「国」にもあると主張。
「KAZUⅠ」は事故前に国の検査に合格していて、事故から2か月後、運航会社としての事業が取り消された際には“事故の責任が知床遊覧船にのみ、あるのはおかしい”としていました。
おととし10月。シャッターが下りたままの運航会社の事務所に、カメラが入りました。
ナギーブ モスタファ記者
「知床遊覧船は事故以来、休業しており、現在事務所は空となっています」
桂田容疑者(HBCの取材に対し・去年10月)
「いまだに事故原因が究明されていないことを歯がゆく思います」
事故の原因について“わからない”と繰り返してきた桂田容疑者。
事故から1年を機に行われた、去年4月の追悼式には「呼ばれていないから行けない」として、会場には花輪だけが置かれていました。
謝罪や説明がないことに、遺族は憤りを募らせます。
乗客と乗員の家族は、桂田容疑者などを相手取り、損害賠償を求めて、それぞれ訴えを起こしました。
去年9月、国の運輸安全委員会がまとめた事故の最終報告書では、社長である桂田容疑者が「業務を現場任せ」にするなど、安全管理体制の不備が影響したと指摘していました。
桂田容疑者(運輸安全委員会の聞き取りに対し)
「同業他社の船長などと相談して、出航などの判断をする体制ができていたので、本船の運航については、船長の判断に任せておけばよいと思った」
ことしの追悼式にも姿を見せなかった桂田容疑者。その翌日…
桂田容疑者(HBC記者へのメール・今年4月24日)
「式典に出ましたか?ご遺族は何名ぐらい来られたのでしょうか?」
式典の様子をうかがうメッセージを記者に送っていました。
海上保安庁 瀬口良夫長官
「証拠隠滅のおそれもありましたので、逮捕の必要性があると判断いたしました」
海上保安庁は、船が沈んだ状況について、開いたハッチに波がかぶって海水が流れ込み、さらに、内部の隔壁に穴が開いていたことで、浸水が船全体に広がったことが、直接の原因とみています。
社長として、乗客と乗員の安全を担う立場にあった桂田容疑者。
事故に結びついた「隔壁の穴」について、以前こう説明していました。
桂田容疑者(HBCの取材に対し・おととし12月)
「(KAZUⅠを)引き継いだときより、穴が開いていたと思います。隔壁があれば沈まずに済んだと思われます。残念です」
これまでの取材のやり取りから桂田精一容疑者の言動を振り返りました。
桂田容疑者は19日、検察に送られて、さらに責任の追及が進むことになります。捜査のポイントについて、元・海上保安庁第3管区海上保安本部長の遠山純司さんに、話を伺いました。
逮捕まで、およそ2年5か月。遠山さんは、海上保安庁として、沈没原因を特定するため、独自の再現実験などに時間がかかったのではないかと推察します。
日本水難救済会 遠山純司理事長(元第3管区海上保安本部長)
(Q.なぜ、このタイミングで逮捕か?)
「沈没に至るメカニズムを特定するのが非常に困難であったということ」
「立証するために、非常に多角的な検証・鑑定を含めた、緻密な捜査をする必要があった」
日本水難救済会 遠山純司理事長(元第3管区海上保安本部長)
(Q.過失の刑事責任を追及することにあたって、事故発生を予見できたかがポイントになると思うが?)
「ポイントになるのは、出航の判断が適切であったか…ということ」
「あの段階で出航させなければ、事故は当然発生していない。天候が時化てくるのを分かっていながら“出航させた”という形で持っていく必要がある」
「天候が荒れる、船の運航に支障があるような状況になるというのが分かっていたか。その予見の可能性、これをしっかり押さえる必要がある」
今後の捜査では、船の運航を管理し、船長と連絡を取って判断を支援する「運航管理者」としての桂田社長の責任を追及するとみています。
日本水難救済会 遠山純司理事長(元第3管区海上保安本部長)
「きちんとした船が、安全に運航できる、判断ができる資質を備えた人の要件がある」
「そういう資質のある人であれば、当然あの状況では、出航はさせないという判断をすべきであった。それをしなかった「過失があった」というふうに持っていく」
一方、今後、有罪立証のハードルとして懸念されるのが、事故の3日前、国の検査を代行するJCI=日本小型船舶検査機構が行った中間検査の「合格」という判断です。
日本水難救済会 遠山純司理事長(元第3管区海上保安本部長)
「(事故)3日前のJCIの検査で、検査官もそこ(不備)は指摘していなかった。だから、被告側としてはそこをついてくると思う」
「船の場合は、外部から水が侵入するのを防ぐ、いわゆる“水密性”が保たれるという、 これは船の安全なコンデションを保つ一番基礎になるところですから、それが保たれてないというのは基本的にありえない」
「“安全管理をするという意識が全くない”ということは、安全管理の実態がないということは言える」
桂田容疑者の逮捕。トップの責任追及へ捜査も佳境に入っていくことになります。
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