環境省が2026年度にも石川県能登地域でトキの放鳥を検討しているとの報を受け、被災地から期待の声が上がる。地元の「能登トキファンクラブ」会長の宮下源一郎さん(76)=穴水町乙ケ崎=は、能登半島地震で自宅が中規模半壊するなど被害が癒えぬままだが、活動を本格化させることを決意した。「復興にはシンボルが必要。トキが飛ぶことを、農業・観光など産業も含めて地域の活性化につなげなければ」と意気込む。(山谷柾裕)

能登トキファンクラブの活動再開本格化へ意気込む宮下源一郎さん=石川県穴水町乙ケ崎で

◆ファンクラブ会員が200人に拡大、機運高まる中で地震

 本州最後の野生のトキ「能里(のり)」が捕獲された乙ケ崎で育った。しかし、トキを見たことがないまま、大学進学で郷里を離れ、32歳で戻った時には、能里は移送先の佐渡で死んでいた。それでも「上の世代が熱心に保護に取り組んでいたのを覚えている。色あせたトキの羽根を、今でも持っている家もある」と、地区にとって大切な存在だと話す。  宮下さんは元県議。鳥類の保護活動に触れたのは、経営していた環境コンサルタント会社が請け負ったゴルフ場開発の環境調査で、動植物などの学識者と仕事をしたことだった。当時は開発業者と折衝する立場だった。  70代になり、環境保護に軸足を置こうと、22年に「能登トキファンクラブ」を結成。自身の土地にビオトープを造り、町内でシンポジウムや自然観察会を開くなどし、会員は約200人まで拡大した。今回の地震は、トキ放鳥の機運を醸成するために「ゆるキャラ」を作る構想を温めていたタイミングで起きた。

◆ゆるキャラ考案、デザイン案募集へ

 クラブ事務所にしていた建物は全壊。自宅も柱がずれるなどし「自分自身、いまトキなんて、と思っていた」。それでも、6月に紙粘土や段ボールで人間ほどの大きさの張り子を作り、「ニッポニア・トキ次郎」と名付け、ゆるキャラのイメージをひとまず形にした。「放鳥機運を高めるためには、実際に人と触れ合う着ぐるみの製作が必須。製作にはどうしても時間がかかってしまうから、キャラクターデザインを早いうちに磨かなければ」と語り、地元の高校などでデザイン案を募りたいと考える。  放鳥スケジュールが固まりつつあり、9月中にも、クラブメンバーを集めて今後の活動を話し合う予定。8月には穴水町を訪問した「くまモン」と会い、ゆるキャラによる地域振興への夢は膨らむ。「地道にビオトープの草刈りもしなきゃなあ」と汗を拭った。

 能登のトキ 明治時代に急速に生息数を減らし、1957年に石川県輪島市三井町洲衛、61年に同県穴水町七海で繁殖が観察されるが、64年以降、雄の「能里」1羽になった。能里は70年、佐渡のトキとの繁殖を目指して穴水町乙ケ崎で捕獲され、佐渡トキ保護センターへ移送されたが、翌71年に死んだ。



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