原発の使用済み核燃料からウランやプルトニウムを取り出し原発で再利用する核燃料サイクルの肝になる再処理工場(青森県六ケ所村)について、日本原燃は8月、2024年度上期としてきた完成目標を2026年度内にすると発表した。延期は27回目。青森県の宮下宗一郎知事が「ただちに信頼できない」とあきれるほどで、着工から30年以上たった今も動く見通しは立たない。核燃料サイクルは果たして完成するのだろうか。(山下葉月、荒井六貴)

◆総事業費は17兆5000億円に 膨らむ国民負担

 再処理事業を担う国の認可法人「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」(青森市)は今年6月、再処理工場と、取り出したウランとプルトニウムで作るMOX燃料の工場建設に伴う総事業費は計約17兆5000億円になったと発表した。昨年度よりも4200億円増え、膨らみ続けている。電気料金を通じて国民が負担している形だ。  原発の使用済み核燃料にはウランやプルトニウム、マイナーアクチノイドと呼ばれる核種などが含まれる。再処理工場で化学処理しウランとプルトニウムを取り出し、MOX燃料工場で他の物質と混ぜてMOX燃料に加工し、もう一度発電に利用する取り組みが「核燃料サイクル」だ。  再処理工場では、使用済み核燃料を3~4センチ大にカット。これらを硝酸で溶かし、燃料部分と金属片などに分別する。溶けた燃料部分からマイナーアクチノイドなどを除き、ウランとプルトニウムを取り出す。  さらに純度を高め、ウラン溶液とプルトニウム溶液を精製。ここから、溶けていた硝酸を取り除き、ウラン酸化物とウラン・プルトニウム混合酸化物の2種類を製造。この混合酸化物の粉末が、最終的に「MOX燃料」となる。  現状、日本の使用済み核燃料は、英国が撤退したため、主にフランスで再処理。処理後のMOX燃料を使い発電(プルサーマル発電)するのは関西電力高浜3、4号機など4基にとどまる。

◆規制委審査に対応できず 「技術力に疑問」

 再処理工場の完成延期が続く大きな原因は、原子力規制委員会による設備の詳細設計や工事計画の審査で、原燃がまずい対応を繰り返しているからだ。原発と違い前例がなく、原発6、7基分の設備数があり、審査対象は約2万5000点。設備の耐震や構造設計などの説明が尽くされていない。

完成延期が続く再処理工場(青森県六ケ所村で、日本原燃提供)

 原燃は、核燃料サイクル関連で約390万平方メートルの広大な敷地があり、施設ごとに地盤が異なるのに、考慮せずに申請。審査途中で、地盤を調べ直す事態にもなった。約6万ページの申請書のうち約3100ページで誤記載や落丁など不備も見つかっている。規制委の審査担当者は「工程ありきで全部の仕事が雑だ」と指摘。原燃だけで審査に対応できず、関西電力は職員の派遣もしている。  8月26日の審査会合で、原燃はようやく全体計画を報告。すべての説明を終えるのに来年11月までかかる見込みとした。  原燃は「再処理の技術的な能力はある」と自信を見せる。ただ、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は「原燃の技術力がないから、規制委から求められる回答ができないのだろう。工場が完成しても、想定通りの量を製造できるのかは分からない」と指摘する。

MOX燃料工場の完成予想図(日本原燃提供)

◆サイクル回らず…むつ市に中間貯蔵施設

 再処理工場が未完成で使用済み核燃料を運び込めないことから、各電力会社は行き場に困っている。使用済み核燃料を保管する原子炉建屋内のプールが満杯になると、原発を運転できなくなるため、建屋外での保管を計画している。  東京電力と日本原子力発電は、出資会社の「リサイクル燃料貯蔵」を設置し、青森県むつ市に中間貯蔵施設を建設。東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)からの使用済み核燃料を受け入れる。  他原発では、原発敷地内に貯蔵施設を造る動きが広がる。すでに原電東海第2原発(茨城県)では稼働中だ。関西電力は立地する福井県から県外搬出を求められているため、県外の中間貯蔵を検討。中国電力とともに山口県上関町で建設計画を示すが、具体化していない。   

◆原燃ってどんな組織?株主は電力会社

 正式名は日本原燃。日本原燃サービス(1980年設立)と日本原燃産業(85年設立)が92年に合併し発足。建設を進めている再処理工場とMOX燃料工場の運営のほか、ウラン濃縮、放射性廃棄物の貯蔵管理を担う。増田尚宏社長は東京電力出身。主な株主は全国9電力会社と日本原子力発電で、9割を保有。核燃料を製造するためのウラン濃縮などで、売り上げは1828億円(2023年度)。 

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