能登半島地震を耐えた漆器を次の使い手に…。石川県輪島市で輪島塗の漆器店を営んできた大家芳春さん(68)、智子さん(64)夫妻が、被災した蔵から取り出した漆器や陶器などの伝統工芸品を、長野県軽井沢町の「緑友食堂」で展示販売している。17日まで。(北村希)

◆「多くの人が物への執着がなくなった」

 輪島塗の椀(わん)や盆、九谷焼や伊万里焼の皿のほか、大家漆器店の商品など約200種類が並ぶ。明治期の貴重な品も。芳春さんが特徴や使い方などを、訪れた人に丁寧に説明する。

蔵出しの漆器や陶器を前に、訪れた人と談笑する大家芳春さん(右)=長野県軽井沢町の緑友食堂で

 夫妻は地震で輪島市内の自宅兼店舗が全壊し、現在は石川県内灘(うちなだ)町のみなし仮設住宅に暮らす。輪島市内に1人暮らししていた智子さんの母、浦寿美恵さん=当時(88)=は家の下敷きとなって入院し、持病が悪化して2カ月後に亡くなった。市から災害関連死に認定された。  芳春さんは地震後、所有する蔵が傾いた知人から、所蔵品を含めて取り壊そうとしている話を聞いた。「命だけでも助かったのだからと、多くの人が物への執着がなくなった」

◆貴重な品々 買い求めやすい値付け

 蔵には、十数代にわたり収集されてきた輪島塗や九谷焼など数百点が残っていた。漆器店主として「丁寧に作られた一生物」を販売してきた芳春さんは「一つでも多く次の世代に引き継ぎたい」と、全ての所蔵品を引き取ることにした。  ボランティアとともに二つの蔵から取り出した壁土まみれの品々を、夫妻で一つずつきれいにし、買い求めやすい値を付けた。6月に付き合いのある東京のギャラリーで展示会を開き、軽井沢での開催は、知人の作家を通じて実現した。  浦さんが亡くなってから「すごく落ち込んでいた」という智子さんは「良い物を残していかなきゃ」と使命感に駆られ、少しずつ前向きになれている。「どれも今の技術では作れない物ばかり。大事にしてくれる人に長く使ってほしい」と話している。 

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