東京都内の私立大で今月、学生に対するハラスメントで教授が停職180日の懲戒処分を受けた。複数の関係者への取材によると、この教授は都内の自治体で、いじめ対策の委員を務める人物だった。大学の発表で教授名は匿名で、本人からの詳しい説明もないため、自治体側は対処に困っている。公的な肩書を持つ人の不祥事。情報共有や説明責任が求められるのではないか。(木原育子)

◆大学のガイドライン通り匿名で発表され…

 「複数の学生に対する不適切な言動によるハラスメント行為が行われた」  明治学院大(東京都港区)は2日、心理学部の教授を停職180日の懲戒処分にしたと匿名で発表した。「相手に不快と思われる言動で人格を傷つけたり、不適切な言動や指導を行った」と認定されたという。

教授の懲戒処分を発表する明治学院大学のウェブサイト

 同大は懲戒処分のガイドラインで「原則として個人が識別されない範囲で公表」と定めている。  今回の匿名発表も原則通りではあるが、大学教授の場合、学外で公的な審議会や委員会のメンバーを務める人が少なくない。そうした人について学外への連絡はどうなるのか。同大広報課は「ケース・バイ・ケース」と述べるにとどめた。

◆教育委員会の問い合わせにも、大学は詳細明かさず

 その曖昧さがすっきりしない状況を生んでいる。  懲戒処分発表の数日前、都内の自治体の教育委員会に、この教授からメールが届いた。  「一身上の都合で、委員を辞退したい」という内容だった。教授は2018年から、教育長をトップに関係部局や有識者らでいじめ施策を話し合う「いじめ問題対策会議」や、重大事態が生じた時にいじめの事実を確認する「いじめ問題調査委員会」で委員を歴任してきた。

明治学院大学=東京都港区で

 いずれも有償で、定期的な「いじめ問題対策会議」の場合、年3回開かれ、1回1万3000円の報酬が支払われている。  突然の連絡に教委側も困惑。担当課長は12日、「こちら特報部」の取材に「どうして辞退したいのかなど内容を具体的に把握したかったが、大学側が明かさなかった」と話す。詳しい説明がない状態だが、今後、後任を選ぶという。

◆委員の中立性を保つため非公表とはいえ…

 教授は不登校児童・生徒の支援をする都内の会社の顧問も務めている。同社は短期間で学校に再び通わせるとPRするが、不登校の子どもを持つ保護者からは、再登校重視の手法に疑義を唱える声も出ている。  「こちら特報部」は、いじめ関連の委員辞退などに対する教授の見解を聞くため、大学などを通じて取材を申し込んだが、「多忙のため」として応じてもらえなかった。  また、教授が顧問を務める会社の代表者にも電話したが、応答がなかった。  教育現場のハラスメント問題に詳しい日本女子大の坂田仰(たかし)教授(教育制度論)は「いじめ関係の委員は中立性を果たすため、元々名前を公表していない自治体もあった」とした上で「一般論として、行政関係の委員が途中で辞任する場合、公的な立場を踏まえ、できるだけ理由を説明する責任を果たす必要がある」と指摘する。  今回の件について、坂田氏は「いじめも広義ではハラスメントの一種のため、(委員として適任か)疑義が生じるのは当然だ」という見方を示し、大学の発表のあり方についても説く。「6カ月の停職は決して軽くない。臆測を生むような発表は逆に混乱が続いてしまう。もう少し社会に説明する姿勢をもってもいいのではないか」 

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