図書館司書の資格を持つ東京新聞記者がお薦めの場所と本を紹介します

多くの人が思い思いにくつろぐ「まちライブラリー@MUFG PARK」=坂本亜由理撮影

 窓の外に広がる緑がまぶしい。どこか名のある高原ホテルのロビーのように見えるが、実は都内の図書館である。「ここは誰もが使える私設図書館です。今はおよそ1万1000冊くらいの本がありますね」。まちライブラリー提唱者の礒井純充(いそい・よしみつ)さん(66)が柔らかな笑みを浮かべた。  驚くのは、ここにある本全てが寄贈によって集められていること。寄贈者は自分が本を推す理由や思い出を書いたメッセージカードを添えて納める。「最初は本が集まらないんじゃないかと心配でした。ましてや、メッセージなんて面倒なことをしたら余計です。でも、杞憂(きゆう)でした」。本を通じて誰かとつながりたい―。そう願う人は予想以上に多く、本棚は次々と埋まっていった。

芝生と林に囲まれた図書館「まちライブラリー@MUFG PARK」=西東京市で

◆飲食もおしゃべりもOK 窮屈な禁止事項は無し

 まちライブラリーの活動は2011年に始まった。「皆で本を持ち寄って、育てる」というコンセプトが共感を呼び、今では全国に1160カ所以上できた。場所も形態もさまざま。ここは三菱UFJ銀行が社会貢献の一環として出資をしているが、個人が自宅で行ったり、カフェや病院、大学やお寺に併設したりと、街の生活シーンに溶け込む。彼らの活動は「まちライブラリーのつくりかた」という本に詳しく記されている。

「まちライブラリー」を提唱する礒井純充さん=西東京市で

 ここのもう一つの特徴は、公共図書館にありがちな禁止事項がないことだ。「飲食もOKだし、おしゃべりしてもいい。Wi―Fiだって飛ばして、自由に使っていいようにしています」と礒井さん。居心地の良さが話題となり、昨年6月の開館から1年で約8万人が利用した。多い日は、平日で約300人、土日祝日は約600人が集う。  「サードプレイス」という言葉がある。家、職場・学校ではない居場所、くつろげる場所という意味で使われるが、ここはまさに人々の「第3の居場所」だと感じた。乳児を連れた女性が本を手に憩う。年配の男性が静かにページをめくる。小学生たちが元気に駆け込んでくる。本と人が育む温かな光景にしばし、見とれた。(谷野哲郎)

◆この1冊とともに

礒井純充「本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた」 学芸出版社、1980円 【まちライブラリー@MUFG PARK】 西東京市柳沢4の4の40
西武柳沢駅から徒歩約15分
電話 042(452)3125
開館 午前10時~午後5時半
休館 原則月曜と火曜
利用 閲覧は無料。本の貸し出しなどは初回のみ会員登録(一般500円)が必要 

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