東京23区の区長記者会見について東京新聞が調べたところ、年間0回または1回の低頻度にとどまる区が7区(30.4%)に上ることが分かった。地方自治に詳しい専門家は「聞かれたくないことにも答える『説明責任』を果たす環境が整っていないのではないか」と指摘する。

9月5日に開かれた世田谷区長会見=世田谷区役所で(佐藤航撮影)

 区長が出席し、報道機関などの質問に答える定期的な記者会見の回数について各区に聞いた。0回は荒川区だけで、千代田、中央、文京、台東、目黒、練馬の6区は1回だった。毎月実施しているのは、北区のみ。このほか頻度が高いのは、世田谷区が10回、品川区が9回と続いた。  荒川区は新型コロナ禍をきっかけに年1回の会見を動画配信などに切り替えたといい、「必要な案件があれば記者会見を行うため、回数は適切」と説明。1回と答えた練馬区も「新型コロナ感染拡大を契機に見直した」と、頻度の低い理由にコロナ禍を挙げた。  また「1回を基本としているが、緊急で必要な場合は実施する」(中央区)、「必要な案件がある場合は記者会見を開催している」(文京区)などと年1回の区のほとんどが臨時会見での対応に言及。このため定期的な会見は「1回でも適切」といった回答が目立った。  2回以上の16区のうち港区や新宿区など12区は、開催目的として「区の情報発信・PR」などを挙げた。品川区と江戸川区からは「区政運営の透明性を確保するため」などと、区民の目を意識した回答があった。

◆片山善博氏「監視行き届かないエアポケット」懸念

 調査結果について、鳥取県知事や総務相を務めた片山善博・大正大特任教授は「人口60万人の鳥取県でも毎週、知事会見を開いた。23区は県よりも人口も財政規模も大きい区があるのに、メディアの監視が行き届かず『エアポケット』になっている」と指摘する。

23区で区長の記者会見の頻度がもっとも高かった北区の区役所

 各区には、報道各社で連携して記者会見を主催する記者クラブはなく、区側が会見を開いている。片山氏は「区長の胸三寸で会見の開催を決められる状態だと、不正や不祥事についての説明責任は避け、PRばかりになる。行政を監視するためにも、権力者が嫌がっても出ざるを得ない場が必要」と話した。(小沢慧一)  ◇

◆会見動画のネット公開、定例会見少ない区ほど低調

 区長会見はインターネット上での発信方法にもばらつきがある。ユーチューブで生中継した上で、後からも視聴できるよう動画をホームページで案内しているのは品川、世田谷、杉並の3区。  一方、「発信していない」と回答(8月上旬)した千代田、文京、目黒、渋谷の4区は、いずれも定期的な会見も年1〜2回と少ない区で、記者会見を区民らに開かれた場にしようとする姿勢の差が浮かんだ。

区長の記者会見をYouTubeで生中継し、後から視聴することもできるようにしている品川区の区役所

 生中継している世田谷、杉並両区は会場に手話通訳者を配置し、耳が不自由な人への情報保障にも気を配る。世田谷区はコロナ禍の2020年5月、区民の安全や安心に関わるとして、区長のメッセージ動画で手話通訳を導入し、以降の記者会見でも続けている。  杉並区は昨年4月に手話言語条例を施行、今年5月の会見から取り入れた。「聴覚障害のある方から『うれしい』との声があった」という。港、品川、大田、豊島、北、葛飾の各区は、会見後に手話通訳を追加した動画を公開している。  このほか会見当日や数日後に動画で公開する区が多かったが、板橋と練馬の両区は会見資料と写真、要旨をホームページに掲載するのみだった。(奥野斐) 

 行政機関の記者会見 主に報道機関からの求めで政府や官公庁などが開く情報開示や説明の場。記者クラブが主催する場合が多い。東京と埼玉、千葉、神奈川の1都3県と、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市の各政令市は、知事や市長の記者会見を週1回〜月1回で開いている。



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