使っても使ってもなくならない電子マネー「円天」で天国のような生活を!なんて売り文句で「疑似通貨・円天」は1200億円もの出資金を集めました。まだ電子マネーが今ほど一般的でなかった時代です。しかしその構図は典型的な「ポンジスキーム」。つまり詐欺でした。(アーカイブマネジメント部 疋田 智)
「円天」は使ってもなくならない(?)
2006年から2007年にかけて、波和二会長(当時)率いるL&G社は、「円天」という疑似通貨を発行しました。1円天=1円で買うと、元金保証、年利36%(100万円出資すると3か月で9万円)の配当金、および年利100%もの「配当円天」を出す としました。
円天は当時まだ耳新しかった「電子マネー」をうたいました。年に100%の配当円天が出るのだから使っても使ってもなくならないと喧伝し、全国に販路を拡げていったといいます。
「円天市場」に神降臨(?)
円天のうまかったところは、実際に「円天市場」なるマーケットを開き、円天でものが買える体裁を作ったことです。
実際にその市場では生鮮食料品から宝石まで様々なものが買え、あたかも円天が実際に流通しているような錯覚に陥りました。波社長が円天市場にあらわれると「神のように崇められた」といいます。
有名人もレコメンド(?)
円天事件にはじつは多くの有名人が関わっています。
「豪華アーティスト出演」の派手なコンサートを開き、顧客を無料で招待。有名歌手に「今後とも円天をよろしくお願いします」と言わせて信用させました。
また、円天のカタログマガジンを見ると、著名な学者が推薦のコメントを寄せています。
こうした芸能人や有名教授たちに多額のカネを払い、円天はかりそめの信用を得ていったのです。
21世紀の「電子マネー」(?)
もうひとつ時流だなと思わせられるのが「電子マネー」というあり方だったかもしれません。まだ今ほど電子マネーが身近ではなかった時代「21世紀なんだから、こんなことがあるのかも」と新鮮に思わせたことが、円天に説得力を持たせました。
顧客はみなガラケーで円天を支払いました。ガラケーの画面には待てばまた別の円天が振り込まれ、最初のうちは配当金も支払われました。数か月で被害者は円天を信じてしまいました。こうして円天(L&G社)は出資者約3万7千人から約1285億円ものカネを集めたのです。
典型的な「ポンジスキーム」
もちろんそんな「ウマい話」があるわけありません。円天は最初から出資者から集めたカネで配当金を出すという自転車操業で、いつか必ず破綻するという構図でした。実質的にカネを稼ぐ手段がないのですから当たり前です。カネは組織の内部をぐるぐる回って、出ていくだけ。これこそが「ポンジスキーム」です。
配当金はやがて滞り、円天市場も開かれなくなり、この大規模詐欺ビジネスは、多くの被害者を出して終焉となりました。
最初から「自称・歴史に残る詐欺師」
それにしても出たがりの人物でした。わざわざカメラの前でゴルフをし、酒を飲み、逮捕間際まで色々な姿をテレビに見せつけました。逮捕直前には「歴史始まって以来の大詐欺師の顔を写したってや」と言い放ち、カメラを睨みながら警察に捕まったのです。
それもそのはず、実は1978年にもマルチ詐欺で捕まり、そこから先ずっと「出たり入ったり」の詐欺師人生を歩み続けてきました。最後の円天もいわば最初から騙すつもりとしか思えない「大風呂敷」を、広げるだけ広げて、メディアの前から姿を消したのです。
今に残る教訓
判決は懲役18年。波被告側は「強制捜査で妨害されなければ、円天事業が軌道に乗り、元利金は返済できた」などと主張を続けました。しかし判決は「事業の根拠は全く不明で、妄想の域を出ない。弁解ともつかない妄言を繰り返した上、自己正当化に終始している」と厳しいものでした。
この手のポンジスキーム(詐欺)、じつは現在も出ては消え、出ては消えしています。「最初のうちは配当金を出す」というのがミソで、そこで信じてしまいます。「元金保証」や「やたら高い配当率」がキーワード。皆様お気をつけを。
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