兵庫県・斎藤元彦知事の“疑惑”の調査のため開かれた9月6日の百条委員会。証人尋問には斎藤知事に加え、知事の最側近だった片山安孝元副知事が出頭しました。“告発者さがし”をめぐり、片山氏による元県民局長への事情聴取はどういったものだったのでしょうか。

内部調査のキーマン・片山元副知事が百条委に出頭

 9月6日の百条委員会のキーパーソンとなった片山元副知事。1983年に兵庫県庁に入庁し、主に人事畑で経験を積んだ人物です。2021年の定年退職後、副知事に就任。今年7月の辞職表明の記者会見では、涙を流すシーンが非常に印象的でした。斎藤知事とほぼ毎日コミュニケーションをとっていたという片山元副知事。自身も知事から厳しく叱責されたことが何度かあり、その際に知事が「付箋」を投げたという発言もありました。

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 改めて、斎藤知事の疑惑をめぐる動きについて、順を追って見ていきます。3月12日、元県民局長が斎藤知事の『7つの疑惑』に関する告発文を報道機関などに送付。3月20日、斎藤知事が文書を把握。その翌日(21日)、斎藤知事・片山元副知事・幹部職員3人が知事室に集まり対応を協議し、そこで“告発者さがし”の決定がなされたということです。

 3月25日、片山元副知事が元県民局長へ事情聴取。3月27日には、斎藤知事による「うそ八百」「事実無根」発言がありました。この発言について、片山元副知事は「びっくりした」と百条委員会で話しました。というのも、27日の会見で知事は「調査をしていきます」と話す予定だったということです。

「在職していることは忘れんとってくれよな」人事権をちらつかせた“脅迫”か?

 この“告発者さがし”について、片山元副知事が証人尋問で語りました。それによりますと、3月21日の協議で、告発文書を手にした知事が「徹底的に調べてくれ」と発言。この知事の指示を聞き、“告発者さがし”が始まりました。この際、具体的に「何を調べるのか」といった協議はなされなかったということですが、「誰が告発したのか」という“犯人さがし”の方向へ動いたそうです。6日の百条委員会でも片山元副知事から告発文書をめぐって、“単独犯”や“複数犯”といった言葉が聞かれました。

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 そして3月22日、複数の職員の公用メールの調査に乗り出します。これについて片山元副知事は「知事から徹底的に調べろと言われたので、行為者をさがさないといけないと思った」「元県民局長のメールからは文書の骨子が見つかった」「ほかの職員のメールからは『クーデターを起こす』『革命』などのくだりがあって、かなり不正な目的だと思った」と発言。また、片山元副知事はこの“不正な目的だと思った”という言葉を繰り返していました。これは、公益通報者保護法で保護される対象は“不正の目的がなく通報したもの”とされているため、“不正な目的だと思った→保護する対象ではない→犯人さがしに乗り出した”というロジックとみられます。

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 そうした中で、3月25日には最初の事情聴取が行われました。亡くなった元県民局長へ最初に事情聴取を行ったのは片山元副知事(と職員)で、人事権をちらつかせるような発言もあったということです。

 【事情聴取での片山元副知事から元県民局長への発言】
 「名前が出てきた者は一斉に嫌疑をかけて調べなければしゃあないからな。メールで名前が出てきた者は在職していることは忘れんとってくれよな」

 元県民局長は当時、退職時期が迫っていました。この片山元副知事の発言は、メールの調査で名前が出てきた“今後も在職する他の職員”に「影響が出ることを忘れんとってくれよな」という意図ともとれます。また、次のような発言もあったということです。

 【事情聴取での片山元副知事から元県民局長への発言】
 「みんな嫌疑をかけるから、(退職まで)5年なり10年ある者、ようおったけど、わしがチェックするわ、しゃあない。A氏を上げよう(昇格)と思っていたが、どうなってもしゃあないな。それはかまへんな」

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 事情聴取の結果、片山元副知事は「元県民局長が何度も『1人でやった』『うわさ話をまとめた』と言っていた」と知事に報告しました。ただ、このような事情聴取で元県民局長が真実を発言できたのかは疑問です。

 百条委員会でも、「どう考えても“告発者さがし”であり、人事権をちらつかせた脅しでは?」と指摘がありました。それに対して片山元副知事は「その時の一つ一つの発言に厳しいところがあったことは指摘のとおり。反省している」と答えました。

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 この事情聴取のやりとりについて松田真紀弁護士は、当時の調査方法や状況などを総合的に判断する必要があるとしたうえで、「脅迫罪になり得る」という見解を示しています。発言が怖さを感じさせることになるため、個人の自由な意思決定を奪うことになり、脅迫罪になる可能性があるということです。

元県民局長から「告発文書の精査」の依頼 元副知事は“公益通報”と認識せず

 なぜ“告発者さがし”にブレーキがかからなかったのでしょうか。片山元副知事によりますと、3月22日か23日に、幹部から片山氏へ「こういう案件は第三者で調査することが多い」という話があり、また3月24日ごろには、協議に参加した幹部に対して人事課が「第三者機関での調査」を進言したということです。ただ、「第三者委員会などを立ち上げると時間がかかる」という知事の意向で実現しなかったということです。

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 3月27日には、元県民局長が「告発文書の内容を精査してくれ」と片山元副知事に依頼。片山元副知事は「わかった」と発言したものの、動くことはありませんでした。このやりとりについて、百条委員会で「当時、公益通報という認識はあったか?」と問われた片山元副知事は「ありませんでした」と答えています。ただ、片山元副知事は兵庫県の公益通報の担当者の1人なのです。

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 斎藤知事は証人尋問で、元県民局長の事情聴取について「片山氏に一任」していたと認めています。その上で、第三者委員会の調査については「3月25日前後に、委員会を立ち上げて話を決めていく方法もあるよねといった記憶は少しある。ただ、第三者委員会をやりましょうとか、そういった話はなかったと記憶している」と発言。

 片山元副知事の証言からは、人事課が第三者機関での調査を進言していたとして“告発者さがし”にブレーキがかかりそうな局面があったことが明らかになりました。ただ知事としては、そのようなことが積極的に話されたことはなかったという認識で、話の食い違いが見られます。

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