立候補の表明が相次いだ自民党・総裁選。争点の一つとなっているのが「選択的夫婦別姓」です。30年間、議論が進んでいませんでしたが、自民党はなぜ反対を続けてきたのでしょうか?その背景に迫りました。
保守派の強い反発「日本はこんな社会になってよいのでしょうか?」
「選択的夫婦別姓」をめぐっては、28年前に、法務大臣の諮問機関による答申を受け民法改正案がまとまっている。
しかし、自民党が法案提出を了承せず、法改正に至っていない。背景には保守派の強い反発があった。ある保守系団体の印刷物には…
「別姓家族の家では、家族全員の名前を表札に掲げる必要が出てきます」
「日本はこんな社会になってよいのでしょうか?」
これを作成したのは「日本会議」の関連団体。「日本会議」は、美しい日本の再建と誇りある国づくりを掲げ、政策提言などを行う民間団体だ。
団体の活動を支持する「日本会議国会議員懇談会」には、自民党など260人の国会議員が所属している。
安倍晋三 官房副長官(2002年・当時)
「日本会議の皆様方におかれましては、日本のあるべき姿を求めて日夜ご貢献をいただいていること、心から敬意を表する」
日本会議はこれまで、選択的夫婦別姓に反対する集会を開き、自民党議員などへの働きかけを続けてきた。
自民党 山谷えり子 参院議員(2010年)
「素晴らしい歴史、家族の歴史を紡いできたこの日本を解体してはならない」
そして、2010年の参院選で自民党は、当時与党だった民主党の夫婦別姓法案に反対すると政策に掲げた。
「『夫婦別姓』は、わが国を根底から覆そうとする意識が働いているとしか考えられないものです」
国連から「差別的」だとして是正勧告を受けたあとも、議論は進まなかった。5年前の参院選の党首討論では、夫婦別姓への立場を問われ、自民党の安倍総裁だけが…
ーー選択的夫婦別姓を認めるという人は挙手を願います
自民党 安倍晋三 総裁(2019年・当時)
「単純化してショーみたいにするのはやめた方がいいですよ。政策的な議論をちゃんとしないと。イエスかノーかということでは、政治はないですから」
自民党が反対を続けてきた影に何が…。
“夫婦別姓”の審議を求める意見書の可決相次ぐも…議論進まぬ理由
国会で30年間、採決されることがなかった選択的夫婦別姓制度。一方、都道府県からは法制化の審議を求める意見書の可決が相次いでいる。
その一つ、埼玉県議会では、3年前の2021年「選択的夫婦別姓制度の導入に向けた国会審議の推進を求める意見書」を可決した。取りまとめに動いたのは、自民党の県議たちだ。
しかし、その2年後の県議会選挙の際、ある団体から複数の県議に手紙が届いた。送り主は神道政治連盟の埼玉県本部。選挙を支援する条件として、「夫婦別姓の反対」など7つの項目への賛同を求める内容だ。
手紙の内容
「伝統的な家族制度の崩壊につながりかねない、選択的夫婦別氏(姓)制度の導入に反対し、その対処策として旧姓の通称使用の拡大に努めます」
自民党 田村琢実 埼玉県議
「神道政治連盟から、こういうものが送られてきたのは初めて。ちょっと違和感があった」
神道政治連盟は、全国8万社の神社を包括する神社本庁の関連団体の一つで、自民党の国会議員と長らく、深いつながりを持ってきた。
森喜朗 首相(2000年・当時)
「神様を大事にしているから、ちゃんと当選させてもらえるんだなと」
神道政治連盟のホームページには、問題意識を共有する国会議員として自民党出身者271人の名前があがっている。
自民党 田村琢実 埼玉県議
「このような内容で同意される方って、保守政治家の矜持というのか、保守政治家は、それに反対しなきゃいけないと思い込んでいるところがすごく強いと思う。私の肌感覚では、国会でも、もう多数は取れているんだと思う」
「日本会議と異なる主張をして“選挙への影響”を恐れていた人もいた」
一方、岡山県議会では2021年3月、選択的夫婦別姓の法制化に反対する意見書が可決された。
意見書の元となったのは、約1か月前に提出された陳情書。それを自民党県議団が主導して意見書にまとめたという。
陳情書と意見書は、全く同じ文章から始まっている。
「家族は社会の基盤である。家族が同じ姓を名乗る夫婦同姓制度は、家族の絆や一体感の維持、子供の福祉に資するものであり、社会の維持にとっても極めて重要な制度」
番組の取材で、この陳情書を提出には日本会議の幹部が関わっていたことが分かった。その幹部を知る神社の宮司は…
陳情した人を知る宮司
「日本会議の役員をされていたから。日本会議いろんな噂はあるが、神社庁も含んでいるし、皇室と英霊とかを大事にする、そういう人間が集まっている」
意見書の可決までには、どんな経緯があったのか。自民党の県議は…
――議会で可決をした意見書についての話ですので、お立場としては説明をしていただきたい
自民党 市村仁 岡山県議
「その気持ちはわかるんですけど、ちょっと立場上、私の子どもが受験生であまり刺激を与えたくない。田舎の方ですからね」
カメラの前での説明を拒む県議。一方、自民党県議の中には、当時は党の方針に従ったものの、実は選択的夫婦別姓に反対ではなかったと打ち明ける人もいた。
自民党 乙倉賢一 岡山県議
「別姓を望まれる人は別にいいんじゃないと思いよったよ」
――家族の絆、一体感が危うくなって、子どもの福祉に悪影響を及ぼすと
「そう言っている人もおったな。影響があるかどうか、やってみな分からん」
――諸外国ですでに実施されていて、あまり影響ないのでは?
「さすがにな。それが別姓になったら絆が作れないのであれば、諸外国で絆はないわな」
“日本会議と異なる主張をして、選挙への影響を恐れていた人もいた”と別の県議は話す。
自民党 木口京子 岡山県議
「いわゆる保守で(陳情を)出した人もそちらの考えの強い人で。その人たちとの意見が違えば、落選運動に持っていかれたという経験はいっぱい聞いていますから」
――改めてこの意見書をご覧になって
「(意見書に)私はそもそも反対。あまりこれは納得できないので。元々そういうスタンスです」
意見書の可決には、日本会議の働きかけがあったのか。岡山の事務局が電話取材に応じた。
――落選運動を恐れるということを言う人も
日本会議岡山本部
「日本会議としてそういう活動をすることは一切ありません。個人としていろんな人に圧力をかけたり、賛成・支持したり、不支持に回ったりというようなことをしているのは、あくまでも個人の考えに基づいたものですから」
――家族の絆や一体感が、別姓によって壊れるとお思いなんですか?
「うーん、壊れる…これも表現の一つなんですけど。じゃあ子どもはどっちの姓を名乗るんだというような、夫婦別姓を実施した場合に起こってくる問題について、もっと言及して、その上で夫婦別姓をもう少し慎重に考えていくべきではないか」
全国で「家庭教育支援法」を求める意見書が可決 その背景に一体何が?
全国の地方議会では他にも、同じような文言の意見書が可決されていた。
家庭での教育を社会全体で支援しようという「家庭教育支援法」を求める意見書だ。少なくとも全国34の自治体から、似た意見書が国に提出されている。
その家庭強化のための条例制定を2020年までに目指すと掲げていたのが旧統一教会だ。目標は「ビジョン2020」と題されていた。
実は岡山県議会でも3年前、「家庭教育応援条例」を審議する動きが始まった。2万あまりの反対署名が提出されたが、2022年に賛成多数で可決された。
この条例の制定に関わった中心人物として、旧統一教会系の新聞「世界日報」で紹介されたのが、自民党の福島恭子県議だ。
自民党 福島恭子 岡山県議(世界日報のインタビューより)
「さまざまな家族や団体があって、社会は成り立っている。『家族』『親族』という単位をもっと大切にしないといけないが、個人優先となっているのが今の日本です」
日本会議によると、福島県議は日本会議の会員だという。
岡山県でこれらの意見書や条例に反対する活動を行ってきた則武弁護士。こう分析している。
則武透 弁護士
「選択的夫婦別姓に反対して『家制度』を守るという思想と、家庭教育に国家・行政が介入していくというような、『家制度』を温存しようという思想はやはり同根ですよね。実際のこのロビー活動を展開している日本会議、旧統一教会、私は根っこが同じ問題だと思う」
9月5日、福島県議に話を聞くと…
自民党 福島恭子 岡山県議
「代表質問を…今回、私…。このあとずっと打ち合わせなので」
改めて、日本会議や旧統一教会との関係が政策に影響したのか聞いたところ、「取材には応じない」と回答があった。
日本会議にも旧統一教会と連携して動いているのか聞いた。回答は…
「日本会議結成からまもなく30年になろうとしていますが、この間『旧統一教会と一緒になって活動している』という事実はございません」
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