年齢を重ね、本を読む時にリーディンググラス(老眼鏡)を必要とする女性たちに特別な眼鏡をかけてほしい―。横浜市中区のデザイナーYuki Gotanda(ゆき・ごたんだ)さんがそんな思いで手がける眼鏡ブランドが、世界に挑む。ジュエリーのようで知性的な雰囲気の眼鏡を通して、年を取ることに否定的な風潮を壊したいという。(志村彰太)

「年齢を重ねるのが楽しみになるような眼鏡をつくりたい」と話すYukiさん=横浜市中区で

◆「中身」や成熟に重きを置く価値観を知り

 「読書で流す涙」をイメージし、レンズの下部にキラリと光るクリスタルガラスをあしらったデザイン、かけると耳元でフリンジが揺れてイヤリングに見える。Yukiさんが2017年に始めたブランド「BOOKART(ブックアート)」の眼鏡は3種類で、繊細さを失わないよう鼻部分にパッドを使わない。  横浜市内の高校を卒業後、デザイン専門学校を経て印刷物のグラフィックデザイナーになった。20代は米ニューヨークへ断続的に留学。そこで出合ったのは、見た目や年齢を気にせず「中身」の美しさや成熟に重きを置く価値観だった。

Yukiさんがデザインした3種類の「BOOKART」(Yukiさん提供)

◆老眼鏡を使い分ける母親の姿を見て

 「夢をかなえられないまま年を取ることが怖かったけれど、すごい開放感を得た」。女性の若さや外見に価値を置く日本社会の中で、自身が傷ついていたことにも気付いた。  帰国後、ブランドを立ち上げる準備を始めた時、母親が読書や外出などシーンに応じて老眼鏡を使い分けているのを見て、眼鏡を題材にしようと決めた。米国で聞いた「読書をする人は美しい」とのフレーズも思い起こした。「周囲の目を気にせず、年齢を重ねるのが楽しみになるような特別な眼鏡をつくりたい」とデザインに取り組んだ。  デザイン画を持って、高い生産技術で知られる福井県鯖江市の工房を回ったが、眼鏡専門のデザイナーではないYukiさんの提案はなかなか受け入れられなかった。ようやく請け負ってくれる工房と出会い、1年以上かけて最初のモデルを仕上げた。

◆再起に向けた勝負の場所としてパリを選んだ

 発売直後から好調で、「眼鏡が必要な年になり初めての眼鏡でしたが出会えてよかった」「この眼鏡に合う雰囲気になろうと思いました」など、うれしい声が届いた。  だが、新型コロナウイルス禍の影響で、製造を依頼していた工房が倒産。別の生産先を見つけ、昨年11月から少しずつ生産を再開した。  再起に向けた勝負の場所として選んだのは、9月20~23日にフランス・パリで開かれる世界最大規模の眼鏡展示会「SILMO Paris(シルモ・パリ)」。同展の関係者から誘いを受け、「飛躍するなら今だ」と引き受けた。

◆クラファンで出展費用を募集中

マスマス関内フューチャーセンターで展示されているBOOKARTの一部=横浜市中区で

 「自分の好きな眼鏡をかけ、内面を磨く時間を過ごしてほしい、見た目や年齢にとらわれない価値観を持ったこのブランドを世界中の人と共有したい」と目標を語る。  出展費の一部に充てるため、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で協力を募っている。目標額は100万円。横浜市中区の起業家育成拠点「マスマス関内フューチャーセンター」では、出品する眼鏡を展示している。いずれも9月15日まで。 

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