東京・明治神宮外苑地区の再開発を巡り、青山通りから北西に延びる4列のイチョウ並木について、事業者や東京都は保全の意向を繰り返し強調してきた。ただ外苑のイチョウ並木といえば、この128本のほか、横道にある2列18本も含むのだが、18本が立ち並ぶ場所は新しい野球場の建設が予定されている。従来、ほとんど言及されてこなかった18本は、どうなるのか。(森本智之)

◆一体ととらえられてきた「総数146本」

 「外苑の銀杏並木は直路四列一二八本、直路中ほどよりかつての女子学習院(現、秩父宮ラグビー場)にいたる二列一八本、総数一四六本を擁している」

4列のイチョウ並木の近くには「守ります」と書かれた看板が置いてある

 明治神宮がまとめた「明治神宮外苑七十年誌」はシンボルのイチョウ並木をこう解説する。  4列128本のイチョウはテレビドラマなどにもたびたび登場するなど、知名度がある一方、2列18本も含めた146本は一体のものと説明されてきた。外苑内の看板などでも同様だ。

◆「新神宮球場」の予定地…移植も困難

 七十年誌によると、146本は新宿御苑のイチョウから種を取った兄弟木。1923年3月に一緒に植えられ、関東大震災や戦火を共にくぐり抜けてきた。  だが昨年着工された再開発事業では、2列18本がある場所は、建て替えられる新しい神宮球場のライトスタンドやフィールドになる予定だ。  建設計画を変更せずに18本を救うには別の場所への移植が考えられるが、簡単ではない。移植の際は一定の根や枝を切る必要があり「樹木にとっては大手術のようなもの」(樹木学者)だからだ。本紙は2022年、国立競技場の建て替えに伴って移植した樹木を研究者に確認してもらったところ、生育不良が相次いでいることが判明した。樹齢100年を超える18本へのダメージも小さくはない。

◆「判断できない」から既に2年経過

 事業者側は18本について着工前の22年から2年以上、「移植を検討する」と曖昧に言い続けている。難しさを把握しているからだ。

2列18本のイチョウ並木=東京・明治神宮外苑で

 22年8月の都環境影響評価審議会では、複数の有識者の委員から「勝算はあるのか」などと疑問が呈された。事業者側は「技術的にはできないことはないのだろう」としつつも、「前向きに検討ができるかどうか考えていきたい」「絶対にできないということを今、判断することもできない」と移植を明言できなかった。その後、現在まで新しい情報はない。

◆住民グループ「説明責任果たして」

 18本の運命が宙に浮く中、事業者は都の要請を受け昨年9月から、再開発事業で伐採する樹木を減らす検討を続けている。検討結果が近く公表されるとも報じられており、18本についても何らかの判断が示される可能性がある。

18本のイチョウ並木

 外苑に近い港区の住民らでつくる「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」は8月下旬、事業者側に説明責任を果たすことなどを求める要請書を港区に提出。18本の保存についても求めた。  代表の加藤なぎささんは報道陣の取材に「国立競技場の建設の際に移植した木はどうなったのか。保存の方法として移植は適切なのか。しっかり示してほしい」と事業者側に注文した。 

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