東京都の53区市町村に聞いたアンケートでは、今年1月の能登半島地震を受けて、31区市が避難所の食料やトイレの備蓄を見直していることも分かった。一方で、被災者への物資提供のルールについては自治体の対応が分かれており、災害時の生活支援に課題が残る。(原田遼)  新宿区は、携帯トイレの備蓄を大幅に増やす。現状は福祉避難所を除いて約1万5000個で、今後に福祉避難所を含めて約14万個を追加する。能登半島地震では下水管が破損し、水洗トイレの使えない状況が続いたからだ。  都の想定では、首都直下地震が起きた場合、23区内の下水管の被害は最大でも5.4%にとどまるとされる。新宿区の担当者は「想定外の事態に備える」と話した。品川区は水洗トイレ5基があるトイレトラック(約3000万円)を23区で初めて購入する。

災害時の備蓄倉庫を整理する新宿区の職員=東京都新宿区で

 避難所の食料の拡充も、8区市が検討。避難者1人当たりの備蓄を1日分から3日分に増やす江戸川区の担当者は「2日目からは都から食料が配送される計画だが、(道路が寸断された)能登の状況を見て計画通りに来ない可能性も考えた」と理由を話した。  ただ、在宅避難者も含めた被災者全体に食料などを円滑に支給できるかは、未知数だ。

◆避難所運営に町会や他県の応援、県の方針周知難しく

 能登半島地震では、在宅避難者の支援に課題が残った。一部の避難所では石川県の方針に沿わず、在宅避難者が物資の受け取りを断られるケースがあったという。  輪島市の避難所で活動するピースボート災害支援センターの辛嶋友香里さん(40)は「避難所を運営するのは町会や他県から交代で応援にくる自治体職員が主で、県の方針を周知することが難しかった」と振り返る。

◆「提供する」「対象外」在宅避難者への対応バラバラ

 今回のアンケートで「在宅避難者にも避難所の備蓄分を提供するか」と聞いたところ、44区市が「避難所にいる避難者と同様に提供する」と答えた一方、「断る」(台東区)、「提供の対象外」(世田谷区)、「余りがあれば提供する」(東大和市など)、「決めていない」(多摩市など)など対応はさまざま。各自治体の方針が避難所で共有されなければ、混乱しかねない。  辛嶋さんによると、能登半島地震では、在宅避難者の把握や健康管理にも苦労したという。辛嶋さんは「都心は地域の結び付きが薄く、在宅避難者の把握は難しいだろう。災害関連死を増やさないために、備蓄の拡充と同様に地域コミュニティーを強化する取り組みも必要だ」と強調した。

 首都直下地震 30年以内に70%の確率で起こるとされ、東京都は都心南部、都心東部、多摩東部など震源ごとに5類型で被害想定をしている。最悪の想定は都心南部を震源とするマグニチュード(M)7.3級の地震で、区部の6割が震度6強以上に見舞われ、冬の夕方に発生すると死者6148人、建物被害19万棟、避難者数299万人に上るとする。広範囲で停電や断水があり、生活必需品の品薄、空調やトイレが使いづらい状況は1週間以上続く。



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