人工知能(AI)が就活生らを面接するサービス「AI面接官」がにわかに広がっている。企業側は就職希望者を客観的に評価でき、採用活動を効率化できるという。一方で、AIの判断は、偏見や差別につながるリスクをはらんでおり、海外では採用時の利用には規制の動きも。AI面接官はどこまで信用できるのか。(中川紘希)

◆パソコンの画面に面接官のイラスト

 「自己PRの内容をご説明いただけますか」。パソコンの画面に表示されたイラストの面接官が人工音声で問いかけると、学生は「塾講師のアルバイトで生徒と積極的にコミュニケーションを取り志望校に合格させました」とアピール。AI面接官は「その経験は素晴らしいですね」とほめ、「問題に取り組む視点をどう変化させましたか」と追加で質問を投げかけた。

「AI面接官」による面接のイメージ。就活生は、パソコンに表示されているAI面接官の質問に応じて回答していく=VARIETAS提供

 これは、東京の新興企業「VARIETAS(バリエタス)」が5月に始めた企業向けサービス「AI面接官」のデモ体験の様子だ。AIは、相手の回答に感想を述べ、考えを深掘りする質問をする。20~60分ほどの時間で対話を重ね「やり遂げる力」「入社熱意」「戦略的思考力」など30項目で評価。全体を200点満点で採点し、顧客企業に報告する。  1次面接として多数の応募者をふるいに掛けることが狙いで、2次面接以降は各社が従来のように対面で行う流れだ。バリエタスの担当者は「主観を入れず評価でき、学生のポテンシャルを見逃さない。採用のための労働時間やコストも短縮できる」と強調した。  特に近年は、志望動機などを書くエントリーシートの作成に生成AIを使う就活生が増え、企業側が書類選考だけでは評価しにくくなったことも、AI面接が求められる背景にある。

◆「人と話すより圧迫感が少ない」と一定の評価

 2017年から同様のAI面接を手がける「タレントアンドアセスメント」(東京)は、銀行や飲食会社、スーパーなどさまざまな業種の600社にサービスを提供している。最近はアルバイト採用での活用も広がっているという。  AIによる面接を大学生はどう感じるのか。東京外国語大4年の伊藤開人さんは「人と話すより圧迫感がないので緊張せずに話せそう」と歓迎する一方、「人柄など点数が付けにくい部分はどう評価するのかは気になる」とも語った。

イメージ写真。本文とは関係ありません

 千葉商科大の常見陽平准教授(労働社会学)は「AIは数年で異動する採用担当者より主観が入らないのでは。地方の就活生も面接できるメリットがある」とみる。ただ、「面接は、社員と就活生が相互に理解を深める場。AI面接ではその要素を捨てているのでミスマッチが起きうる。AIを導入する企業は学生側に理由も伝えるべきでは」と提案した。

◆海外では「女性を低く評価」で、使用中止も

 一方、海外ではAI利用への懸念も。米メディアによると、米アマゾン・コムは履歴書の評価にAIを使っていたが、AIが女性の応募者を低く評価していたため、17年に使用を中止した。過去の履歴書のパターンを学習しており、男性の応募が多く「男性が好ましい」と認識したとみられる。AIの判断は、偏見などを内包する恐れがあり、欧州連合(EU)は今年5月に成立したAI規制法で、企業が採用で人々を評価する際などに使うAIは「リスクが高い」と分類した。  ITジャーナリストの星暁雄さんは「AIは過去のデータから答えを出す。そこに含まれる偏見、差別などが就活生にとって不利に働く可能性がある。開発企業にも利用する企業にも、慎重な運用を求めたい」と述べた。 

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