夏に悩まされる「蚊」ですが、今年6月、ある研究結果が発表されました。蚊はお腹いっぱいになるまで血を吸うのではなく、「腹八分目」でやめる傾向があり、その理由が分かったというのです。

蚊の血を吸う行動を抑えて、感染症予防にもつながるかもしれない研究に、中心となって取り組んだのは、鹿児島出身の女性でした。

神戸市の理化学研究所生命機能科学研究センター。蚊帳が張られた実験室にいるのは、鹿児島市出身の上級研究員・佐久間知佐子さん(40)です。

彼女が研究しているのは…

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「ヤブカ属のネッタイシマカでして、だいたい500匹近くがこの中に入っています」

この実験室では、熱帯や亜熱帯に生息し、デング熱を媒介するネッタイシマカを、卵から成虫になるまで育てています。蚊が血を吸う行動について実験を行うためです。

ガラス容器に入れたのは、血液を模した緑色の液体。チューブにお湯を流すと、熱に引き寄せられて蚊が集まってきます。しかし、画面左側の容器の蚊は、液体を吸ってお腹が緑色に膨んでいるのに対し、右側の容器の蚊は液体を吸いません。

液体に特定の成分を加えた場合と加えない場合の蚊の吸血行動を比較し、変化を生み出す物質を特定していきます。実験を続ける佐久間さんの額には次第に汗が。それもそのはず。実験室の温度は30度近く、湿度も30%に保たれているのです。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「やっぱり蚊が大事なので。蚊が一番行動しやすいように」「なるべく蚊ファーストの実験環境にしている」

こうした環境で実験を繰り返し、発見したのが・・・。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「血液中のフィブリノペプチドA(FPA)が、”これ以上吸わない”と教えてくれる物質」

蚊は満腹になるまで血を吸うと、相手に気付かれるリスクが高まるため、いわば「腹八分目」で血を吸わなくなることは知られていましたが、どのようなメカニズムでやめるのかは分かっていませんでした。

それが、今回、人の血液中に存在し、血を固める際に発生するフィブリノペプチドA=FPAが、血を吸うのをやめさせる原因物質だと突き止めたのです。他の種類の蚊にも同じことが言える可能性があるといいます。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「吸血をやめさせる物質をどうにかして蚊の体内に入れると、吸血はおさまると思いますし、吸血をやめさせる方向に持っていける。おそらく、病気のもとがうつる回数も減っていく」

実験の構想から今回の発見までおよそ7年。当初は蚊が特別に好きではなかったという佐久間さんも今では。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「寄るのが遅かった『子』たちが、まだ吸っている最中の『子』たちがいます」

Q.蚊のことを『子』と呼ぶが?
「そうですね。かわいがっています」「ようやく幼虫が生まれた、大きくなった、成虫になったと段々と家族というか大事なパートナーみたいな感じになる」

蚊の研究に没頭する佐久間さんは、子どものころから好奇心が旺盛だったといいます。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「市立科学館でよく科学教室があって、常連で行っていた。美術館もしょっちゅう行ったし、歴史も好きだったので黎明館で甲冑を着て、ありとあらゆることが好きだった」

そして、物心がついた時からしていたというのが。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「久しぶりに自分で真面目に折りますが」

折り紙です。手際よく完成させたのは、羽ばたく折り鶴。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「千枚を使うような作品は根気強さもいるし、やってはほどきを繰り返すのは実験と似ているかもしれない」

そして、高校時代は百人一首に熱中。

東京大学に入学して薬学部に進むと、中学生のころに理科の授業で見たテレビ番組をきっかけに関心を持ったという遺伝子に関する研究を始め、蚊の研究につながっていったのです。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「きっとこうだろうというのが見つけられるのが面白くて」「実のところを知りたい、何が真実なんだろう」

若い世代には、自分の興味や日常でふと抱いた疑問を大切にしてほしいと話します。

(理化学研究所 佐久間知佐子さん)「鹿児島はまわりにいっぱい、いろんなことを経験する場所があって、いろんなことができるので、そこに行って自分が好きなことを見つけて、とことんどうしてなんだろうと考えるのがいいと思う」

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