新型コロナウイルスの増殖を試験管レベルで完全に抑制することが確認された天然のアミノ酸「5-ALA」。研究を進めていた長崎大学などのチームは2022年、「人に対する明らかな効果は確認できなかった」と発表しました。しかし発表から2年、5-ALA研究は一歩一歩着実に歩みを進めています。

研究の中心を担う東京大学名誉教授、長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科・北潔教授に聞きました。

Q 2022年の4月に「人に対しては明らかな有効性が確認できなかった」と発表した。改めてこの結果についてー

長崎大学 北潔教授:
「プレスリリースが出て『がっかり…』という声もいただきましたが、『何とか早く薬にしてください』などのレスポンスがほとんどでした」

5-ALAは期待外れだったのか?

【長崎大学とネオファーマジャパンは2020年、新型コロナ感染症患者50人を対象にした特定臨床研究を開始。結果、新型コロナウイルスに感染している軽症及び中等症患者に対し、5-ALAを14日間摂取する群としない群に分け、ウイルス量の変化を見た所、有意差は認められなかったと発表した】

【一方『味覚異常』『嗅覚異常』『食欲』については改善が大きい傾向がみられ、『咳』『だるさ』『食欲不振』も14日目時点で消失の割合が高かった】

北教授:
「PCR検査でウイルス量を測定した場合、感度が良すぎる点もあり、きれいに差が出ることはほとんどないんです」

「対象患者50人のうち8割が軽症の方だったため、被験者のウイルス量が少なく、5-ALAが有効なのか確認できなかったということです。中等症・重症の患者に特化すれば、効果が示される可能性はあると思っていますが、それにはさらに時間もお金もかかります」

「ただし食欲不振や疲労感に関しては効果が示唆されています。特に後遺症には、その後の研究でも有意な改善がみられています」

5ーALAとは?

5-ALAは天然に存在するアミノ酸で食品中にも含まれ、人間も日々体の中で作り出しています。長崎大学などのチームは、5-ALAがマラリア原虫の増殖を抑えることを発見し、「マラリア治療薬」として研究開発を進めていました。

そのメカニズムとして、5-ALAの生成物がマラリア原虫の遺伝子中の構造=「G4構造」に結合し、機能を阻害する効果があると考えて研究を進めていたところ、2019年新型コロナウイルスのパンデミックが発生しました。

新型コロナウイルスの遺伝子にもマラリア原虫が持つ「G4構造」が存在することが分かり試験管内で実験したところ、5ーALAは初期の武漢株のみならず、アルファ、ベータ、ガンマ、オメガ、さらにオミクロン株の増殖を阻害することが確認されました。

5-ALA研究の現在地は?

Q 5ーALA研究のその後は?
北教授:
「試験管内での実験はオミクロン株までしかしていませんが、オミクロン株以上に強力なものは今の所ないのそれ以上の実験はしていません。原理から考えてもどんな変異株が来ても効くはずです」

「今は予防に対する効果や、家庭内感染の拡大を阻止している症例数を蓄積しています。また『G4構造』を持つ他の感染症にも効くはずだということでリストアップしたり、基礎研究の部分をしっかりやって次の何かが来たときに、役立てようとしています」

新型コロナへの作用メカニズムと期待される効果

▼5-ALAがあると、その生成物である「プロトポルフィリンIX」や「ヘム」が新型コロナウイルスの突起に吸着しウイルスの細胞への侵入阻害(予防)

▼細胞内に侵入しても遺伝子の「G4構造」に結合し増殖を阻害する
ー主にこの2つのメカニズムでの効果が期待されています。

さらに、臨床研究でも確認された嗅覚・味覚障害や疲労感の改善は、5-ALAの本来の役割ともいえるミトコンドリアの活性化によるエネルギー代謝の促進によるものと考えられています。

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