能登半島地震で石川県内の「みなし仮設住宅」に身を寄せた被災者に7月上旬、県から1通の文書が届いた。「ライフライン復旧に伴う住まいの意向確認票」。自宅が半壊未満の入居者に向け、「年末を目標に退去できるように」とある。選択の時が刻々と迫る。「退去するしかないのか…」(田嶋豊、広田和也)

◆石川県から届いた「意向確認票」

石川県から届いた意向確認票。選択に応じて今後の対応が記されているが、文字も多く、高齢者だけでは判断もつきにくい=金沢市内で

 輪島市町野町から避難し、金沢市内のアパートで暮らす80代女性が、県からの「意向確認票」の黄色い書面に目を落とす。  小さな商店を営んでいた女性は、店を兼ねた自宅で被災。直後は避難所にたどり着けず、帰省していた息子と車中で夜を明かした。1月4日にたんぼ道を抜け、トイレも我慢しながら7時間ほどかけて金沢に避難した。2月上旬にみなし仮設のアパートに入居した。  罹災(りさい)判定は店舗兼自宅が一部損壊で、盆や正月などに寝泊まりに使っていた建物が準半壊。倉庫は半壊で公費解体の要件を満たした。自宅は雨漏りも激しく、修理せずには住めないが、直すかを決断できていない。女性の義理の娘は「直すにも壊すにも数百万円かかる。修理しなければ、(みなし仮設に)いられる期間もわずか。もっと支援が…」と言葉をのみ込んだ。

◆ライフライン途絶の場合、入居期限は復旧まで

 みなし仮設住宅は、民間賃貸住宅を仮設住宅とみなし、家賃を自治体が負担する。入居期間は自宅が半壊以上の場合は原則2年間。自宅がある地域で水道などのライフラインが途絶した場合は復旧までとされる。  県は9月末にライフラインが復旧する見込みとし、申請時に「ライフラインの途絶」を理由に入居した約1500世帯に意向確認票を郵送。修理を希望する場合は12月末までに自宅修理を完了させ、完了後に退去できるよう可能な限り努めることを通知した。女性もそのうちの一人だ。  文書には、修理をしなければライフライン復旧に伴い、10月1日以降速やかに退去する必要があると記され、自費居住への切り替えも紹介した。生活再建になかなか踏み出せない人もいる中で、8月20日までに返送するよう求めている。

◆故郷に戻れても交通手段はなし

 女性は新生活に徐々に慣れてきたものの、周りには「知った人もおらん」と孤独感もある。気になるのは60年以上を過ごした故郷。「向こうにどれだけの人が戻るんか…」。たとえ戻れても交通手段がなく、この先の不安は尽きない。  県の担当者は、退去期限について「時期を明示することで、退去後の暮らしを考えてもらいたかった。退去を促しているわけではない」と説明。意向確認票にも、工事業者が確保できず、修理完了の見通しが立たない場合は「県に連絡してください」とある。「すぐに修理できない事情は十分に理解している。そうした状況を伝えてもらったら、延長できるかどうか国と協議したい」と話した。  ホテルや旅館に滞在する被災者もいる。県によると、入居期限は8月末まで。仮設住宅の完成時期に合わせ、災害救助法に基づき期限は1カ月ごと延長されてきたが、9月以降の延長の見通しは立っていない。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。