20年以上連れ添って別れた「熟年離婚」が増えている。2022年に離婚した夫婦のうち、4組に1組が熟年離婚で、統計が始まった1947年以降最大の比率になった。長い月日を共にした連れ合いが、それぞれ新しい一歩を踏み出す。何が起きているのか。(木原育子)

◆経験者「お勧めはとてもできない」でも「今はとても幸せ」

 15日、東京・銀座。「熟年離婚」の印象について20人に話を聞いたが、ほぼ好意的な受け止めだった。  「子育てを終えて自分の時間も増えたら、新たな一歩を考える人がいてもおかしくない。自然な流れでは…」と話すのは港区在住のピアノ講師の女性(38)。自身も熟年離婚は「選択肢にある」と明言する。  会社員の男性(60)は熟年離婚の末、5年前に現在の妻(32)と再婚した。「今はとても幸せだが、離婚は結婚より猛烈なエネルギーが必要。円満離婚ならいいが、お勧めはとてもできない」と自身の経験を交えて「助言」する。

◆「後悔ない生き方ができる時代になった」

 静岡から観光で来ていた男性(25)は小学校高学年の時、両親が熟年離婚した。両親は離婚時に50歳を超えていたが「母は離婚してすごく元気になった。我慢するより自由に生きた方が幸せだ」と肯定する。  海外はどうか。旅行中のイタリア人、アンドレアさん(50)とイラリアさん(50)夫妻は「そもそもイタリアは結婚しない人も多い。だから熟年離婚の発想もないし、話題になったこともないよ」とケラケラ笑った。

役所に提出する離婚届

 「お互いの転倒防止」として手をつないで歩いていたのは、結婚して52年になる若林義雄さん(78)と幸さん(75)。2人は「女性も自立して働き、私たちの世代とは違う。後悔ない生き方ができる時代になった」と歓迎した。

◆「食事も作れず口うるさい夫はうまくいかなくなる」

 厚生労働省の統計によると、2022年の離婚件数は17万9099件と、ピークの2002年(約28万件)より4割近く減った。一方で、離婚に占める熟年夫婦の割合は年々増え、2022年は23.5%と過去最大に。1975年にはわずか5.8%で、時代の移り変わりが見て取れる。  理由は何か。「女性の元気の表れかもしれない」と話すのは、仲人歴27年でこれまで2700組成婚させてきたお見合い塾の山田由美子塾長(66)だ。  近年は熟年婚活パーティーも盛況で「うちに来る方も、離婚歴があっても女性はとても若々しいが、離婚歴がある50代、60代の男性は、申し訳ないが、どこかくたびれている印象。昔は亭主関白のままでよかったが、食事も作れず口うるさい夫は残念ながらうまくいかなくなる」との印象を話す。

◆離婚時の年金分割の制度が整備された

 「婚活」という言葉を生んだ中央大の山田昌弘教授(社会学)は「70〜80代は結婚ってこんなもんだという諦めの意識が強かったが、50〜60代は恋愛結婚した世代。中高年夫婦は、仲が良い夫婦と悪い夫婦で二極化しており、後者は第2、第3のチャンスがあると思うのでは」と語る。  また、山田教授は、離婚時の年金分割制度が根付いてきたことを指摘する。2007年から共働きなどの夫婦の合意で、双方の記録を合わせて案分割合を決める「合意分割」が、2008年からは専業主婦ら国民年金の3号被保険者の請求で、相手方の厚生年金の半分が強制的に分割される「3号分割」制度が、それぞれ始まった。  「専業主婦だった女性も食べていけなくなることはなくなった。(年金分割制度を勝ち取った)プル要因と、(新たな恋愛をという)プッシュ要因が重なったのではないか」 

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