長崎市がイスラエルの招待を見送ったことを受け、日本を除くG7各国と欧州連合(EU)が一斉に大使級の参列を取りやめたことしの長崎市平和祈念式典。市は不招待の理由を「不測の事態の発生リスクを勘案した結果」だと説明してきましたが、具体的にどのようなリスクを想定し判断に至ったのか?式典が終わった今も説明はありません。

原爆死没者を慰霊する平和祈念式典を翌日に控えた8月8日、長崎市の鈴木市長は急きょ囲み取材に応じました。内容は「日本を除くG7各国とEUからの書簡について」

長崎市 鈴木史朗市長:
「私としては決して政治的な理由でイスラエルの大使に対し招待状を発出しないわけではなく、あくまでも平穏かつ厳粛な雰囲気の元で式典を円滑に実施したい。そういう思いの元で今回こういう決定をした。私が説明してきた内容がまだ十分に理解して頂けてないことの結果だと理解しています」

その年だけで7万4千人の命が奪われたアメリカ軍による原子爆弾投下から79年となった、8月9日の式典。

市は「式典の円滑な実施」を理由にウクライナ侵攻を続けるロシアと同盟国のベラルーシを3年連続で式典に招待しないことを6月に表明。そのおよそ2か月後の7月31日、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を続けるイスラエルも招待しないことを決定・表明しました。核兵器の犠牲者を慰霊する式典に、ロシア・ベラルーシ・イスラエルの3国だけが招待されない形となったのです。

「ロシア・ベラルーシと同等」ーへの警戒

このイスラエル不招待を理由に核保有国を含む西側諸国の大使らは式典への参列を見送り、格下にあたる公使らが参列しました。

【2022年式典出席者→2024年出席者】※23年は台風のため招待なし
■アメリカ合衆国【特命全権大使→首席領事】
■イギリス【臨時代理大使→政治部公使参事官】
■フランス【特命全権大使→公使/次席】
■イタリア【臨時代理大使→総領事】
■カナダ【臨時代理大使→参事官兼政治・経済部長】
■ドイツ【首席公使→公使参事官】
■EU【臨時代理大使→政治部長】

アメリカ・イギリス・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・欧州連合(EU)の大使は、市が判断を保留していた7月中旬、「イスラエルを招請しないことはロシア・ベラルーシと同等にみなすことで誤った印象を与えることになる」「イスラエルが除外された場合、ハイレベルの参加者を派遣することが難しくなる」とする書簡を市に送り、イスラエルを招待するよう市に迫りました。

その中で下したイスラエル不招待の決断。「政治的理由ではない」とする市長の言葉は相手にされず、各国のイスラエル対策として式典が利用された、との指摘もあります。

式典当日、爆心地周辺を訪れた市民からは長崎市の判断と各国の対応に対し、様々な声が聞かれました。

イスラエル不招待に市民はー

●被爆二世女性(兄弟が3歳2歳0歳で原爆死)
「私は両方気持ちあります。今戦争になっている地域から来てもらいたくないというのと、この惨状をご自身の目で見てもらいたいというのと両方あります」

●被爆二世女性
「本当は気持ちとしては怖いですよね、イスラエルはなかなか言うことを聞かないしね。でも飲み込みながら招待するのが本当なのかなという気はします」

●神奈川県から来た男性
「イスラエルを参加させない、と長崎はきっぱりとおっしゃっている。政治的だというけど、まさに政治家が世界で戦争を起こしていると思えばその犠牲者に対する声をしっかりと長崎市民は伝えたんじゃないかと思います」

●被爆者(祖母・母・兄・姉・妹が原爆死):
「みんなに来て頂いて知って欲しいですよね。何で争うのが好きなんでしょうね人間ね。ろくなことないのにね。私個人としては招待してよかったんじゃないかなという気はします」

外務省で軍縮不拡散専門官として長年核問題に携わっていた長崎大学多文化社会学部の西田充教授は、市の判断を各国が政治問題化した背景について次のように語りました。

長崎大学 西田充教授:
「(政治的な動きにつながったのは)それだけ核の問題に、今世の中がピリピリしている、核のリスクの高まりに危機感があるということ」

「ロシアのプーチン大統領が核のリスクを高める、というあってはならないことをやっている中で、被爆地がロシアとイスラエルどちらも招待しないことで同一視されることへの彼らなり(西側諸国)の危機感だと言える。仮にイスラエルのやり方に疑問があったとしても、ロシアの行動はイスラエルのそれとは比較の対象にならないレベルとの認識があるのだろう 」

理由は「外側からの推測」

「長崎市の判断の理由は基本的には『警備上の理由』になっている。もしかしたら市民が知りえないテロの情報等があったのかもしれないが、国際政治上の理由は、あくまでも《外側からの推測》になる」

「世界平和を訴える被爆地長崎としては、『イスラエルに自衛権はあるが今のやり方は受け入れられないんだ』と、はっきりと説明した上で招待するかしないか別途判断すれば、そこから対話が始まったと思う。それが『警備上の理由』の話にすることで対話のきっかけを失わせてしまったのではないか。感情的な議論になってしまったのは非常に残念」

「平和宣言」ではイスラエル名指しを削除

ことしの式典で長崎市長が読み上げた「長崎平和宣言」で、市は素案にはあったイスラエルの国名を最終的に除外しました。

【長崎平和宣言・素案】(抜粋)
「核保有国のロシアと核保有疑惑国のイスラエルを当事国とする2つの大きな戦闘が同時進行する中で、核兵器の使用をためらわない姿勢を示し続けているのです。」

【長崎平和宣言】(抜粋)
「ロシアのウクライナ侵攻に終わりが見えず、中東での武力紛争の拡大が懸念される中、これまで守られてきた重要な規範が失われるかもしれない。私達はそんな危機的な事態に直面しているのです」

被爆者や有識者らが意見を出し合う平和宣言文起草委員会では、委員からガザで起きている人道危機への言及と共に、イスラエル国名の明示を求める意見も出ていました。しかし市は「一部の国のみを列挙するとバランスが取れない、訴えたいことがかすんでいくのではないか」などとして、イスラエルの国名を除外ー、しかしロシアは残しました。

そして式典には警備上の理由でイスラエルを不招待。一方で、去年10月イスラエルに大規模攻撃をしかけたハマスの拠点があるパレスチナ、そしてハマスを支援するイランは招待し両国とも参列しました。

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