2025年秋に予定される国勢調査に向け、現場の自治体から調査員不足に懸念の声が上がっている。5年に1度、日本国内に住む全ての人を対象に世帯構成や居住期間、就業状況などを尋ねるが、島根県では県内自治体の大半が現状で、国の統計調査に携わる調査員を確保できていないという。100年以上続く国の最も基本的な調査は、今後どうなるのか。(山田祐一郎)

◆前回調査では、確保できたのは必要な人数の1割以下

国勢調査で巡回する調査員。本業は地方自治体に勤める公務員だ=2020年、愛知県内で

 「思ったよりも厳しい」。島根県内の19市町村に今年5月、統計調査員の確保状況を尋ねた同県統計調査課の松尾周一郎課長が漏らす。国の統計調査に携わる調査員について、14市町村が「確保できていないため、(職員に頼むなど)他の手段で対応している」と回答した。  国勢調査に絞ると、前回2020年の調査で、松江市では必要数1213人に対し確保できたのは107人。職員や自治会関係者などで補充したが、最終的に250人以上が不足した。来年の調査については、松江市含め3市が「国が想定する配置基準では確保が困難」と答えた。その次の2030年調査になると「困難」という見方が14市町に増える。  国勢調査は、調査員が各戸を訪問して調査票を配布し、インターネットや郵送で回答を受け付ける。前回2020年は新型コロナウイルスの影響で、調査票を郵便受けに投函(とうかん)し、インターホン越しに趣旨や内容を説明する方式も導入された。だが、オートロックマンションや昼間の不在の家、回答拒否など調査員の負担が増しているという。

◆「都市部のほうが厳しいはず」

 統計調査員の確保状況に関する自治体の調査はめずらしい。丸山達也知事は6月の記者会見で「(調査員の確保は)都市のほうがより厳しいはず。この状況を心配しなければいけないのは統計を実施している政府では」と問題を投げかけた。  総務省によると、2020年調査では当初、全国で約70万人の調査員を予定したが、集まったのは61万4000人。約6割が自治会などの推薦で、60歳以上が6割以上を占めた。来年も同規模の調査員を予定する。ただ、松本剛明総務相は7月の会見で「自治体などからは、調査員の高齢化、なり手不足の課題や調査世帯との面会が困難になっていることに対する要望などもいただいている」と述べた。

◆オートロック世帯には郵送配布も検討

東京都心部のビル群(資料写真)

 同省は「基本的には調査員による調査。高齢者世帯の代理記入などもあり、できるだけ対面で調査している」(担当者)という立場だが、一部地域でオートロックマンション世帯への郵送での調査票配布も検討している。  国が実施する基幹統計を巡っては、来年実施される「農林業センサス」でも、60年以上の歴史がある「農業集落調査」が現場の地方農政局の人員不足を理由に一時、廃止が検討された。研究者らの反対で調査は継続されるが、調査票の配布、回収は民間に委託する。  「国勢調査は、その時点で実際に誰がどこに居住しているのかを正確に調べるもの。調査結果は選挙区割りや少子高齢化対策などあらゆる政策に活用される。戦後に制定された統計法で唯一、条文に明示された極めて重要な統計だ」と信州大の舟岡史雄名誉教授(統計学)は説明する。

◆「調査員の熱意頼み、見直す時期に」

 前回調査では最終的に16.3%の調査票を回収できず、住民基本台帳情報の転記と近隣への聞き取りで補った。未回収は2000年の1.7%と比べ、大幅に増加している。「次回以降も多くの未回収が発生する恐れがあり、実態を反映できなくなる」と懸念する。  舟岡さんは「公的統計調査における調査員調査第一主義」からの脱却を訴える。「これまでの熱意ある調査員に頼るという仕組みを見直す時期に来ている。民間調査機関の活用など、統計調査の制度の再検討が求められている」 

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