8月のJNNの世論調査で、岸田内閣の支持率が先月の調査から4.1ポイント上昇し、31.0%となった。3割台に回復したのは去年の10月以来、実に10か月ぶりのことだ。なぜ上昇に転じたのか。一方で、9月に予定される自民党の総裁選挙で岸田総理の再選を望む声は2割にも満たない結果となった。
支持率が”裏金前”の3割台に回復も・・岸田総理「交代すべき」70%
岸田内閣の支持率が上昇に転じたことについて、ある自民党幹部は「国会が閉会したからその効果だろう」と話した。政府関係者の中には「オリンピックでなんとなくあがってるだけ」と評する人もいた。
一般的に、国会開会中は委員会審議などで野党の政府・与党への追及がクローズアップされることから、内閣支持率は下降傾向になる。とくに先の通常国会では、いわゆる”裏金国会”の様相を呈し、自民党の派閥の裏金事件の追及や、それに関連する政治改革規制法改正案の審議に多くの時間が費やされた。
岸田内閣支持率は今年4月に、内閣発足後、過去最低となる22.8%を記録。不支持率も同月に過去最高の75.0%に達した。その後、これまで微増微減を繰り返し、岸田内閣の支持率は”低位安定”している。国会が閉会し、野党の追及する機会も減ったことから上昇に転じたとも言えるが、どちらかというと支持率が底をつき、下げ止まったとみるほうが正しいかもしれない。
10か月ぶりの3割台という数字は、いわゆる”裏金事件の前”に支持率は戻ったことになるが、裏金事件を端緒とする自民党への政治不信はいまだ根強い。
9月に予定されている自民党総裁選で岸田総理の再選を望むか、交代を望むかを聞いたところ、再選し、続投を望む声はわずか17%、交代を望む声は70%にのぼった。これを自民党支持層に限って見てみると、6割近くが交代を望んでいる。支持率が”裏金前”に戻ったとはいえ、多くの国民が岸田総理の再選を望んでいないことがわかる。
立憲民主党の支持率も下落傾向 代表選は6割以上が「関心なし」
岸田内閣の支持率が長期低迷しているからといって、野党の支持率があがっているのかといえば、そうでもない。8月のJNN世論調査では、自民党が先月の調査から3.0ポイント上昇しているのに対し、野党第一党である立憲民主党は先月から2.2ポイント支持率を落とし、野党第二党である日本維新の会も0.6ポイント落としている。
次の衆院選挙後の望ましい政権のあり方について聞いたところ、「自民党以外に政権交代をのぞむ」が「自公政権の継続をのぞむ」をかろうじて上回ってはいるものの拮抗している。
裏金事件をめぐる国会審議真っ只中だった5月の調査では、「政権交代をのぞむ」世論が48%で「自公政権継続をのぞむ」が34%だったことを考えると、政権交代を望む世論は萎みつつある。国民にとって、自公政権の継続はのぞましくはないが、立憲や維新など現在の野党を中心とする政権へのイメージが湧かないのかもしれない。
立憲民主党の泉代表の任期満了による代表選挙は、来月7日告示、23日に投開票で行われることが決定した。党の代表選挙の規則上、最長となる17日間で、自民党の総裁選と期日を近づけた。
世論調査ではこの代表選について、関心がない人が6割を越えているが、自民党と立憲民主党のどちらが政権を握るのがふさわしいのか、この選挙期間中、国民が政策論争をみる重要な機会となる。
「次の総理」ランキング 本命不在”で3位以下”は大混戦
自民党の中で次の総理にふさわしい人は誰か。
ほぼ毎月のように聞いている設問で、1位石破茂氏、2位小泉進次郎氏、3位河野太郎氏。この順位は5月以降、変わらない。
ただ、全体、自民支持層、男女別で分析してみると、少し景色が変わってくる。1位の石破氏、2位の小泉氏は不動だったが、全体では3位だった河野氏は、自民支持層に限って見てみると6位にまで低下、3位は岸田総理だった。男性だけで見てみると、3位は高市早苗氏だが、女性の3位は上川陽子氏(高市氏は6位)。高市氏は男性に人気、上川氏は女性に人気ということがいえるかもしれない。
河野氏の人気は最近陰りがみえる。全体では3位だが、男性、女性ではともに4位、自民層支持層では6位だ。去年相次いだマイナンバートラブルに加え、在籍する麻生派から抜け出せず、長らく自民党の”異端児”と呼ばれた改革派のイメージが色あせているのかもしれない。
ただ”不動”の石破氏、小泉氏も決して盤石ではない。石破氏は国民人気は高いが、党内基盤が弱く立候補に必要な推薦人20人が集まるかどうかが課題になる。小泉氏も環境大臣時代の不用意な発言が尾を引いている。
次の総理に取り組んで欲しい政策 1位は「物価高対策」、「憲法改正」は最下位
岸田総理は、7日、自民党本部で行われた憲法改正実現本部に出席し、このように述べた。
「憲政史上初の国民投票にかけるとしたならば、ぜひ緊急事態条項と合わせて、この自衛隊の明記も含めて国民の判断をいただく、このことが重要であると考えています」
総理がこの会議に出席することはおろか、憲法改正にここまで踏み込むのは極めて異例だ。さっそく翌日、立憲民主党の長妻昭政調会長がは「総裁選に有利になるとか皮算用が見え隠れしている」などと批判した。自民党内からも総裁選対策で「保守層を取り込むためではないか」などと冷ややかな見方もある。
今回の世論調査で「次の総理にもっとも重点的に取り組んで欲しい政策」をひとつだけ聞いたところ、1位は「物価高対策」で20.9%だった。
岸田総理をはじめ、来月の総裁選に事実上の出馬表明をしている石破氏や、立候補に意欲を見せる小泉氏も憲法改正を訴えるものと見られ、総裁選での争点のひとつになりそうだ。
岸田総理の踏み込んだ発言があり、これから改憲論議は活発化しそうだが、今回の世論調査では、「物価高対策」や「社会保障対策」「景気対策」など、より国民の生活に近いものが上位を占め「憲法改正」は最下位だった。今回の総裁選では、幅広い分野での政策論争となることが求められている。
【8月のJNN世論調査の結果概要は以下の通りです】
●岸田内閣の支持率は31.0%。前月の調査より4.1ポイントの上昇。3割台を回復したのは23年10月(39.6%)ぶり。不支持率は66.4%で前の調査より5.1ポイント下落。
●政党支持率では自民党の支持が27.1%(前月の調査から3.0ポイント上昇)。立憲民主党は5.2%(2.2ポイント下落)。日本維新の会は3.7%(0.6ポイント下落)。
●防衛省の不祥事を巡り、木原防衛大臣が一連の責任を取って「辞任するべきだ」が44%、「辞任する必要はない」が39%
●都知事選で起こった候補者と関係のないポスターが大量に貼られるなどの問題を防ぐため、公選法の改正が「必要だ」が79%、「必要ない」が13%
●9月の立憲民主党の代表選に「大いに関心がある」が8%、「ある程度関心がある」が28%、「あまり関心がない」が39%、「全く関心がない」が25%
●次の衆院選後の政権について、「自民党中心の政権の継続を望む」が41%、「自民党以外の政権に交代することを望む」が42%。
●9月の自民党総裁選で岸田総理が「続投した方がいい」が17%、「交代した方がいい」が70%
●自民党の中で次の総理にふさわしい人は(あいうえお順、敬称略)
「石破茂」23.1%、「加藤勝信」0.8%、「上川陽子」6.9%、「岸田文雄」6.4%、「小泉進次郎」14.5%、「河野太郎」7.1%、「小林鷹之」0.8%「菅義偉」4.8%、「高市早苗」7.0%、「野田聖子」0.7%、「林芳正」0.4%、「茂木敏充」0.9%、「その他の議員」9.0%。
●次の総理に最も取り組んで欲しい政策は(多い順に)
▼1位「物価高対策」20.9%
▼2位「年金、医療、介護などの社会保障対策」19.3%
▼3位「賃上げなどの景気対策」15.4%
▼4位「少子化対策や子育て支援」14.9%
▼5位「『政治とカネ』の問題など政治改革」11.6%
▼6位「外交・安全保障」7.8%
▼7位「憲法改正」1.9%
「それ以外」は5.7%でした。
【調査方法】
JNNではコンピュータで無作為に数字を組み合わせ、固定電話と携帯電話両方をかけて行う「RDD方式」を採用しています。8月3日(土)、4日(日)に全国18歳以上の男女2329人〔固定909人、携帯1420人〕に調査を行い、そのうち43.4%にあたる1010人から有効な回答を得ました。その内訳は固定電話500人、携帯510人でした。
インターネットによる調査は、「その分野に関心がある人」が多く回答する傾向があるため、調査結果には偏りが生じます。より「有権者の縮図」に近づけるためにもJNNでは電話による調査を実施しています。無作為に選んだ方々に対し、機械による自動音声で調査を行うのではなく、調査員が直接聞き取りを行っています。固定電話も年齢層が偏らないよう、お住まいの方から乱数で指定させて頂いたお一人を選んで、質問させて頂いています。
TBS政治部 世論調査担当デスク 室井祐作
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