NTTの島田明社長が7日の会見で、NTT東日本とNTT西日本が手がける電報サービスの終了を見据えた議論を始めることを提案した。電報は緊急時の連絡や祝電などで長年重宝されてきたが、携帯電話やSNSの普及に加え、安価な代替サービスも台頭し、利用者が減少。古いサービスが整理されるのは時代の流れと言えるが、合理化で置き去りにされるものはないか―。(中川紘希)

◆飛び交った「サクラサク」や「チチキトク」

NTT東日本の電報サービスのウェブサイト

 東京新聞「こちら特報部」は9日、日比谷公園(東京)を散策する人たちに電報の思い出を聞いてみた。  「サクラサク」。広島市から旅行で訪れた中島研介さん(75)は大学受験で合格した際に自宅に届いた電報を懐かしむ。結婚式に届いた祝電も振り返り「電話より思いが込められていると感じた。なくなるとさみしい」と残念がる。  東京都新宿区の日田貴友さん(69)は「携帯があるので今は不要かも」。ただ、広島県の祖父が危篤に陥った際、東京に住む父親に電報が届いた。「今も携帯は電波障害でたびたび不通になる。他に緊急時の連絡手段が整っているかどうかは考えないといけない」と話した。

◆ピーク時から96%減

 電報は、手紙より早い連絡手段として国内で1870年に始まり、緊急連絡や冠婚葬祭などでメッセージを届ける際に使われてきた。電気通信事業法は、NTT東西とKDDIのみが行える事業と規定する。  ピーク時の1963年度には9461万通の利用があったが、携帯電話やSNSの普及に伴い、2022年度は377万通と約96%減った。こうした状況に、NTTの島田社長は「どこかのタイミングで終了させていく方向で、法的な話を進めるべきだ」と述べた。  安価な代替サービスの台頭も、電報離れの一因だ。以前は支援者の弔電や地元の式典で電報を多用していた静岡県のある県議は「今は別の安いサービスを使っている人が多い」と明かす。2003年に手紙など信書の配達を民間に認める「信書便法」が施行され、電報とほぼ変わらない類似サービスを始める企業が増えたためだ。仮に「本家」の電報がなくなっても、受け皿はありそうだ。

◆弔電、祝電は日本の文化だが…

 総務省は、NTTとKDDIの電報のルールや料金設定について許可を出している。事業者が電報をやめる場合は廃止を申請し、総務相の許可を受ける必要がある。ただ、NTTの広報担当者は「現段階ですぐ撤退ということではない。総務省の審議会など公的な場で議論を進めておく必要性があるという意味だ」と話した。

デジタル公衆電話

 すぐに電報がなくなるわけではなさそうだが、ITジャーナリストの三上洋さんは「弔電や祝電は日本の文化になって今も親しまれているものの、全体として電報のニーズは減り、廃止に向かうのはやむを得ない」と指摘する。  NTT東西は2026年3月、店舗や企業の紙の電話帳「タウンページ」と、個人や店舗などの名前と住所から電話番号を有料で案内する「104」のサービスを終了する予定だ。三上さんは「どどっと廃止に進んでいる印象だ。民営化前の事業などを廃止し、コスト削減をしたいという強い意志を感じる」と話し、こうくぎを刺す。「災害時に役立つ公衆電話や、高齢者らが今も頼る固定電話など、インフラ企業として採算が合わなくても、必要なサービスは維持すべきだ」 

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