各地で夏の夜空を彩る風物詩として親しまれてきた花火大会。コロナ禍の各種規制がなくなり、さぞ盛況かと思いきや、必ずしもそうではない。近年は開催費用や花火の燃えかす、観客が出すごみなどの問題で、実施を見送る大会が相次いでいる。さらに多発するゲリラ豪雨が開催を脅かす。岐路に立つ花火大会は、今後どうなっていくのか。(山田雄之、宮畑譲)

◆とどろく雷鳴、開催大丈夫?

ウェブメディア「ウォーカープラス」のサイト。各地で花火大会の中止が相次ぐ

 「キャプテンピカチュウ花火」「花火サンバ満開の大競演!」。こんなプログラムが並んだ東京の夏の代名詞「隅田川花火大会」。7月27日夜、趣向を凝らした約2万発が下町の夜空に打ち上がり、約91万人(主催者発表)が酔いしれた。  しかし、大会直前の夕方にはX(旧ツイッター)に開催を危ぶむ声があふれていた。「雷ゴロゴロ鳴ってる。中止になるんじゃない」「ゲリラ豪雨で中止かな」。関東地方で雷を伴う雨が降っていたためだ。不安の高まりは1週間前の20日、東京都足立区の荒川河川敷で予定されていた「足立の花火」が直前に中止になったのも一因だろう。

◆人命優先、開催25分前に中止を決定

 「隅田川も中止になったら、寂しい夏になってしまうところだったので安心した」。足立の花火を主催した同区観光交流協会の安田真人事務局長は「こちら特報部」の取材にこう話す。当日午後6時半ごろに西方で稲光を確認後、気象庁のレーダーで接近の可能性が急浮上。区などと協議し、開始25分前に中止した。  会場にはすでに40万人が訪れており、落胆の声が上がった。安田さんは「申し訳ないが、人命を最優先で決めた。その後の雷雨を考えても妥当な判断だったと思う」と振り返る。ただ、直前の中止のため、会場設営費や人件費などほぼ全額を主催者が支払う。想定費用は約2億7000万円といい、安田さんは「イベント中止保険の補償は微々たるものなので、財源は協会の補助金を充てる。天候ばかりは仕方ない」とこぼす。

◆すでに80大会以上が中止に

 今夏は例年より雷の日が多い。気象予報士の森田正光さんによると、今年は太平洋高気圧が強く東日本に湿った空気が入りやすい。「地上の気温が高いため、上空との温度差が大きく、大気が不安定となり、雷をもたらす積乱雲が発生しやすい。8月も夕刻に雷雨に見舞われる可能性が高いだろう」と注意を促す。  昨年、新型コロナウイルスが5類に移行し、花火大会は徐々に復活した。しかし、全国の開催情報を掲載するウェブメディア「ウォーカープラス」によると、今年は少なくとも83大会が中止や見送りになったという。警備費など開催費の膨張が理由の大会も多いが、花火の燃えかすが問題となり断念したケースもある。

◆プレジャーボートが汚れる被害

隅田川花火大会で夜を鮮やかに彩る花火

 千葉県船橋市での「船橋港親水公園花火大会」がその一つ。4年ぶりにあった昨年、会場近くに係留されていたプレジャーボート7隻に汚れるなどの被害が起き、所有者に塗装などの修理費計約1200万円を実行委の保険で支払った。  会場の変更を検討したが、準備が間に合わず今年は中止に。実行委事務局の担当者は「風向きなども影響し、防炎シートでボートを覆う対策をしてきたが、完全には防げない。苦渋の決断だが、同じ被害は繰り返せない」と説明する。  埼玉県狭山市の「入間川七夕まつり」の納涼花火大会でも昨年、会場周辺の住宅の屋根やソーラーパネル、車に燃えかすが飛散した。花火大会の中止を決めた実行委の事務局担当者は「住民の苦情もあり、重く受け止めている。安全対策の費用も高騰しており、持続可能性を意識しながら来年以降の開催を判断したい」

◆無料招待券を1枚2000円で出品

フリマサイトに出品された幕張ビーチ花火フェスタの無料招待席。1席2000円程度で取り引きされていた

 相次ぐ中止について、ウォーカープラスの浅野祐介編集長は「コロナ禍で大会が開催されなかった時期を経て、地元住民が『当たり前』や『仕方ないもの』と受け入れていた燃えかすや混雑などを『デメリット』と意識する傾向が高まり、運営側も配慮を心掛けている」と推察する。  運営側の苦悩は年々深まっているようだが、花火大会の人気自体は健在だ。  千葉市で3日に開かれた「幕張ビーチ花火フェスタ」では、3万7500席の無料招待券に24万人超の応募が殺到。当選券がネットで1枚2000円ほどで出品される事態に。市の担当者は「近隣の大会が中止になったことも影響している。転売された券の扱いは厳正に対処したい」とした。

◆クラウドファンディングは好調

 7月中旬、5年ぶりに開かれた鎌倉花火大会(神奈川県鎌倉市)は費用をクラウドファンディングで募ると、目標の650万円を上回る791万円が集まった。観客は前回より3万人増の約16万人が訪れた。  こうした花火を巡る話題が尽きないのも、それだけ日本人が花火鑑賞に親しんできたからだとも言える。

◆日本人の花火好き、伊達政宗も鑑賞

 起源をたどると16世紀にさかのぼる。花火の歴史に関する著書がある「すみだ郷土文化資料館」(東京都墨田区)の学芸員・福沢徹三さんによると、1589(天正17)年、戦国武将の伊達政宗が花火を鑑賞した記録が残っているという。  現在のような打ち上げ花火が行われるようになったのは18世紀の江戸時代。隅田川では、夏の舟遊びに合わせて打ち上げられていたが、他の地域では、秋祭りに奉納として行われるなど、必ずしも夏と結び付いたものではなかった。

隅田川花火大会で、東京スカイツリーを背に夜空を鮮やかに彩る花火(多重露光)

◆明治後半以降、全国に広がる

 明治後半から昭和初期にかけ、全国各地で花火大会が開かれるように。技術革新や資金確保、行政の協力などが背景にあると考えられる。福沢さんは「年に一度くらいは花火を見ようという人は多いと思う。テレビ中継される大会もある。それだけ日本人の生活に息づいている」と言う。  次第に夏の行事として定着していった花火だが、最近は夏を避けるケースも出始めているという。  花火の製造・販売会社などでつくる「日本煙火協会」の河野晴行専務理事は「今まで夏に集中しすぎていた。同じ日にやると警備の人員確保も必要だし、われわれも大変。一回限りのイベントでは、秋に行われることもある」と話す。  河野さんは「ゲリラ豪雨への不安もあるのかもしれない。多少、分散するほうがわれわれも助かる」と付け加える。

◆経済効果大と言うけど…真偽は?

 花火大会は多くの人が集まるため、経済効果も小さくないとされる。  経済波及効果の分析で知られる関西大の宮本勝浩名誉教授は、2023年の花火大会の経済効果は約2兆2590億円あったと推計。隅田川花火大会は約211億円の効果があったとはじいた。  ただ、神戸国際大の中村智彦教授(地域経済論)は「経済効果はゼロではないと思うが、1日のイベントで地元の商店などにどれほどの恩恵があるのかはよく分からない。花火の燃えかすやごみの問題など地域住民にとってプラスの面だけではない。地域経済が衰退する地方では、大規模な大会を開催するお金を集めるのは厳しい」と指摘する。

◆夏祭りは将来、変わるのか?

 中村さんは今後、花火に頼らない夏祭りが増えると予測する。  「大都市を中心とした大きな花火大会は今後も続くだろうが、地元住民の負担に見合う経済効果がないと判断された大会は役割を終えるだろう。一方、花火に代わりドローンなどを使った演出で経費と規模を縮小した夏祭りが増えていくのではないか」

◆デスクメモ

 先日、有名テーマパークでパレードを見た。音楽と映像をバックに人気キャラクターが次々登場。花火の連発で締めるフィナーレは劇的だった。ただ、この日の入場料は大人1人1万円超。こんな演出は相当の財力がないとできない。全てのイベントが派手さを追求しなくてもいい。(北) 

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