「安全を最優先に考えることができなかった」小林製薬取締役会の総括

「健康食品を摂取することによって健康被害が生ずることは決してあってはならない。消費者の立場に立って考えれば、重大な健康被害に関する症例の連絡を受けたのであれば、たとえ症例と製品との因果関係が不明であったとしても、まずはそのような症例があったことを知らせてほしいと期待するはずであり…(中略)小林製薬ではその意識が欠けており、重大な健康被害に関する症例の連絡を受けた際に、健康食品を摂取する消費者の安全を最優先に考えることができていなかった」

これは、小林製薬が設置した事実検証委員会がまとめた調査報告書を受けて小林製薬の取締役会が行った総括だ。この総括とともに、小林一雅会長と小林章浩社長の辞任も発表された。

 医師から健康被害報告あったのに…2か月以上要したのはナゼ

報告書によると、小林製薬は2024年1月15日に医師から紅麴サプリに関する健康被害報告を初めて受けてから、3月22日のプレスリリースまで、2か月以上の時間を要している。この間、行政への報告や製品回収も行っていない。この2か月間、小林製薬社内では何が起こっていたのだろうか?

報告書を読み解いて見えてきた流れを詳述する。

注力された“原因究明” 社内では何が起きていたのか?

報告書によると、小林製薬は1月15日~2月1日までの短期間に、6例の紅麴サプリにまつわる健康被害の報告を受けていた。このうち4例は医師からの報告であり、重篤な症例に関する医療機関からの情報提供を短期間に 4例も受けたことはこれまでなかったという。

4例の医師からの報告の中には

・医師A「患者が本件製品の摂取を開始したのが 2023年 12月初旬であり、 急性腎不全の症状が現れるまでの摂取期間が 2 週間程度と短期間であった」

・医師B「尿細管間質性腎炎は腎不全の中でも 特殊な症例であり、病院でも年間わずか 3~4 件の症例であるにもかかわらず、直近 1~2 か月で 3 症例が発生し、しかも3名の患者全員が本件製品を摂取していること」など、紅麴サプリによる健康被害を推察させる内容が含まれていた。

症例報告は「因果関係が明確な場合に限る」

しかし小林製薬はこの時、行政への報告を行うのは、各症例報告の健康被害と本件製品との間の「因果関係が明確な場合に限る」という解釈を採用し、社内での健康被害の原因究明に注力。

紅麴サプリが原因で健康被害が起きているかはわからないというスタンスで、製品の回収や行政への報告は行わなかった。機能性標示食品のガイドラインで、行政への報告を求める基準は“健康被害の発生及び拡大のおそれがある場合”となっており、因果関係については記載がない。

とはいえ、医師を含めた複数から同趣旨の訴えが上がっている時点で“ただ事ではない”と行政への報告や商品の回収・公表に至らなかったのか、強く疑問に思う。

小林製薬の危機意識の低さや安全への意識の低さを感じざるを得ない。

医師から「何らかの毒性による影響の印象」と指摘 

2月上旬、小林製薬では緊急会議を経て再び

①紅麹菌の一種が生成する可能性があるカビ毒シトリニンによる健康被害という仮説
②有用成分であるモナコリンKを含むスタチンに反応する人が偶然摂取したという仮説
③ほかの成分が生成・混入していた仮説
以上の3つを軸に原因分析を行うという指針が示された。

この時点では③の他の成分の生成・混入仮説については、製造プロセスに変化がなかったかなどの確認調査にとどまっていた。製造プロセスに変化がないことなどを確認し製造過程での混入可能性は低いと判断すると、①シトリニン仮説②モナコリンK仮説を優先的に調査することになり、これが原因調査を長引かせる要因になったと考えられる。

しかし2月22日、健康被害報告を行った医師Bへの詳細な聞き取り調査を実施した際に、「具体的には不明なものの何らかの毒性による影響の印象もある」と指摘され、小林製薬では毒性物質が生成又は混入した可能性が再び疑われるようになった。

そして3月6日、外部専門家からの助言を経て小林製薬は特定ロットの詳細調査を実施へと舵を切る。

その約10日後、特定のロットで小林製薬が意図しない成分が含まれている可能性を示す“ピーク”が検出される。そして、22日のプレスリリース・行政への報告へと至ったのだ。

自見大臣「誠に遺憾」「安全への意識欠く」と糾弾

2か月もの期間を経ての公表と自主回収。この期間に販売した製品によりさらなる被害拡大が発生した恐れもあるが、果たしてこれは企業側だけの問題なのだろうか?

機能性標示食品のガイドラインで明確に報告基準が示されていなかったことにも、原因の一端があったとも考える。

消費者及び食品安全担当の自見英子大臣は7月26日、会見で小林製薬が2か月間に渡り、行政へ報告を行わなかったのは「誠に遺憾」などと厳しい口調で非難した。

(自見英子消費者及び食品安全担当大臣)「独自の判断のもとに、健康被害情報を入手してから行政機関への報告までに約2か月を要したことは誠に遺憾でございます。医師から腎疾患腎疾患に関する症例報告があったにもかかわらず、消費者に対する注意喚起も行わなかった。食品の製造を行う企業として、食の安全と安心の確保といった基本的な知識、意識、ガバナンスいずれも欠如していたと言わざるを得ません」

自見大臣「改善すべき点あった」ガイドラインも見直しへ

筆者は自見大臣の就任以来、定例会見にはほぼ毎回出席しているが、自見大臣がここまで強い言葉を使い非難するのは稀である。

筆者も含め、複数の記者から従前の機能性標示食品のガイドラインにおける健康被害報告基準が曖昧だったことにも、問題があったのではないか?と記問われると自見大臣は次のように回答した。

(自見英子消費者及び食品安全担当大臣)「届け出者が評価を経て報告をすることとなっているものの、健康被害の発生の未然防止および拡大防止をはかるというガイドラインの趣旨に鑑みますと、行政への報告が2か月を要したということは適切ではなかったと考えてございます。一方で趣旨が必ずしも明確ではなく、また健康被害の情報提供が食品表示基準における遵守事項となっていないなど現行のガイドラインに改善すべき点があったということも認識してございます」

機能性標示食品制度をめぐっては、政府は5月31日の関係閣僚会合で因果関係が不明であっても、速やかに当該情報を都道府県知事および消費者庁長官に提供することなどとする対応方針を取りまとめており、施行に向けた準備が進められている。このような事態を二度と引き起こさないため、企業側と行政側、双方において万全な再発防止策を講じることが求められる。

報道情報局東京報道部 記者 尾藤貴裕

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