広島カキと言えば全国一の生産量ですが、昔に比べるとずい分、落ちているそうです。原因の一つがカキのエサとなるプランクトン不足です。広島県は、このプランクトンを増やそうと、昨年度からある実証試験を始めました。舞台は下水処理場です。

広島カキの産地の一つ、広島市中区江波地区です。カキ打ち場では水揚げされたカキが次々に、むき身にされています。

シーズンも後半を迎え身もよく太っていますが業者は、昔に比べ育ちにくくなったとこぼします。

米康水産 米田輝隆前社長
「昔の半分でしょうね。生産量も、身入りも。結構、落ちてると思います」

米田輝隆さんは、県漁連の会長を務めています。その漁協の関係者が問題にしているのが下水処理場から出る水です。

米田輝隆さん
「栄養塩のない水が毎日毎日、各下水処理場から出て来ますので、キレイな水なんでしょうけど、なかなかカキも育ちにくい」

栄養塩とは、カキのエサとなる植物プランクトンの生育に必要な窒素やリンなどです。下水処理場に流れ込む下水には、栄養塩がたくさん含まれています。ところが現在の排水基準で処理すると栄養塩がほとんどなくなります。

そこで、県が昨年度から一部の下水処理場で始めたのが「能動的管理運転」の実証試験です。基準値を緩和して栄養塩の排出量を増やしその効果を調べます。

広島県水産課 木村淳課長(当時)
「緩和運転することによって、生物がよく育つかどうかを確かめるとともに、やり過ぎたら悪影響が出る。環境に悪影響がないかも同時に調べながら、今回取り組みを始めている」

汚れを分解する微生物 活動を抑えるために調整するのは空気

下水処理場の排水規制はかつての瀬戸内海の水質汚染を防ぐために行われています。一方で、栄養塩不足で養殖ノリの色が黒くならない色落ちの問題などが発生しました。すでに兵庫県などではノリを養殖する冬季に緩和運転しています。

広島県の実証試験は冬季の半年間に限って3年間実施。初年度は栄養塩の濃度が低い海域の下水処理場2カ所で行いました。

その一つ廿日市浄化センターです。どんな試験なのでしょうか?

廿日市環境エンジニアリング 中髙下 忠信所長
「エアレーションタンクで、微生物の活性化を図っている」

タンクの中にある無数の泡は、空気です。下水処理は微生物の力で汚れを分解します。この空気を送り込むことで、活動を活性化させるといいます。

試験は空気の量を減らし活動を抑えることで栄養塩の濃度を上げます。

廿日市環境エンジニアリング 中髙下 忠信所長
「以前はもっとしっかり泡が出て、グルグル撹拌(かくはん)してるような状況でした」

半年間の緩和運転で、窒素の濃度はおよそ6割増えました。

漁場への影響は 毎月調査船を出して水質を調べ

漁場にはどんな影響があるのか。県水産海洋技術センターは毎月、調査船を出して調べています。

柴田和博記者
「今、廿日市浄化センター近くのカキの養殖場に来ました。これから水質調査のため水を採取します」

3月の調査に同行しました。「地御前(じごぜん)かき」で知られるカキの養殖漁場です。

調査は窒素やリンの濃度、プランクトンの量などを調べます。カキの身入りはどうでしょうか。

県水産海技センター 戸井真一郎次長
「まだ軽々には言えないんですけど、今年はいいと聞いとります」

もう1つの試験カ所、呉市の広浄化センター近くの漁場では、イカダのカキを引き揚げました。

県水産海技センター 戸井真一郎次長
「重たいです。身がしっかり入っています」

引き揚げたカキはセンターに持ち帰って詳しく調べます。

県水産海技センター 戸井真一郎次長
「サンプルのカキ、かなりいいですね。身入りが良くてですね、よく太ってる。(それは緩和運転の成果ですか?)一概には言えませんが、そうあってほしいですね」

広島県では今年度以降、試験カ所を増やして3年間の試験で効果が分かれば、本格実施する考えです。

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