障がいのある人たちが生み出すアートの可能性に注目するシリーズ「アート・ミーツ・ハート」です。紙と接着剤だけで本物そっくりの作品を作る高岡市のアーティストに注目します。彼が今、夢中で作っているのは…。

高岡市横田地区。

安吉将吾さん「ちょっと、家がいろいろ傾いてしまって。こっちに向かうだけで坂になってて。ちょっとビー玉転がした方がちょっと」

液状化で傾いてしまった家に住むのは、安吉将吾(やすよし・しょうご)さん・20歳です。

安吉将吾さん「作る気力もなくて何もできずおったんですけど」

安吉さんは、まるでプラモデルのような本物そっくりの作品を作るアーティストです。

安吉将吾さん「ここ全部紙で出来てて、ボルトみたいにとこも全部紙でできています」「有名な戦艦大和、やっぱ大好きだったんで」

第二次世界大戦当時、世界最大だった戦艦大和をわずか12センチで精巧に再現。

このゼロ戦はコックピットの中のメーターまで忠実に仕上げています。安吉さんは紙と接着剤を駆使して、本物そっくりの立体作品を作り続けきました。

取りつかれたように “虫” にこだわる…

3歳の時に「自閉症」と診断された安吉さん。「多動」や「衝動性」の傾向が強く、じっとしていられない子どもでした。

みんなはできるのになぜ自分はできないのか…。成長とともに周りとの違いに気づき、強い劣等感に苦しんできました。

安吉将吾さん「作品は好きだから作ってるのもあり、やっぱ自分自身があきらめたくないのもあって。なんか自分自身の弱みから逃げたくない」

安吉さんを襲った元日の能登半島地震。

母 佐知恵さん「家の下から液状化がなってんだね。液状化だよね、たぶん…」

家は液状化で最大8センチ傾いたことがわかりました。地震がまた襲ってくるかもしれないー。不安と恐怖から、地震後、安吉さんは作品を作ることができなくなっていましたが。

安吉将吾さん「作れなくて、心の中ですごくストレス溜まってたというか、もう作らなきゃやってられんみたいな。もう地震が来ようとも作る、みたいな、感じで」

作りたいという思いがつのり、地震後およそ1か月で創作を再開。

この日作っていたのは、ショウリョウバッタです。画像を見ながら数ミリ程度の画用紙を切っては貼り、切っては貼りをくり返し、バッタの胴体を細部までリアルに再現していきます。

地震後はとりつかれたように虫だけを作っているそうです。

絶滅危惧種を含む28種類の昆虫たち…

母 佐知恵さん「虫はやっぱりすごい。姿形を生きやすいように変えていくっていうところも、ものすごく感動するところだって言って、その虫を僕は大好きなんだって」

富山市中央通りにある美術館、ギャルリ・ミレーで開かれている「ぶりゅっととやま!みられ展」。

県内の障がいのある作家13人の自由な発想で作られた個性豊かな作品が展示されています。安吉さんの作品はまるで本物の「昆虫標本」のように美しく整然と飾られていました。

安吉将吾さん「これもこれでなんか、このままでも家に飾りたいぐらいの気持ちですね。ただやっぱちょっと触れないのがちょっとやだというか、触りつつ眺めとるのが好きで」

展覧会に飾られたのは、よく見かける虫から絶滅危惧種まで28種類の昆虫たち。作るのに一番苦労したと話すのは、沖縄に生息する緑色のセミ「クロイワゼミ」です。

安吉将吾さん「黄緑色の和紙を使って作りました。羽の細かい部分も結構大変で」

お守りみたいな感じに見てる…

今月6日は、出展作家がそれぞれ制作秘話などを語るギャラリートークが開かれました。

安吉将吾さん「結構苦手な人もいるやつばっかり作ってる」
司会「触ってみて大丈夫ですか?」

安吉将吾さん「優しくなら」
司会「優しくなら触れるそうなんで、もしよかったら」

お客さん「すきだよね、虫、小さい時から。今は触らないけど、これ動かないから大丈夫」

お客さん「すごいっすね」

安吉将吾さん「よく家で出てくると言ったら、このゲジゲジにはなりますね。見た目はやばいんですけど、でも意外と本当にありがたいんですよ。ゴキブリを食べてくれる。たぶんゴキブリを食べるためにこの素早さも手に入れたんでないかと」

母 佐知恵さん「こちら飾っていただくのに、ほとんどの虫出した後、虚無感がすごくて。『さみしい』みたいな感じになって。僕じゃあやっぱり作るわって言って、作り始めて気が付いたら、またこれだけ増えているっていう状況だったので」

どんどん虫が増えていき、これまで作った昆虫の数は55匹にものぼります。

安吉将吾さん「正直自分の作っている子たちが、いわゆるお守りみたいな感じで見てるので。本当家にいないと本当落ち着かなくて」

能登半島地震から半年。自宅の傾きもようやく直りました。

環境に適応したくましく生きる昆虫たち。自分で作った虫たちを支えに安吉さんはきょうも作り続けます。

安吉将吾さん「『虫がいない、新しく作らなきゃ』みたいな。ちょっとなんか虫中毒みたいな」Q家に虫が足りてないと?「なんかそんな感じです。ただのやばい人みたいな感じになってますけど」

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