まずはこちらの数字をご覧ください。614→548。これは山口県内を走る路線バスの路線数の推移です。66路線減っているということなんですが、実は、2021年には614路線あったのが、去年は548。わずか2年間での減少なんです。全国でも相次ぐ路線バスの減便や廃止。厳しい状況にある現場を取材しました。

防長交通 運転士・山本忠行さん(61)
「はい、ありがとうございました」

防長交通の山本忠行さん、61歳。バスの運転手になって33年の大ベテランです。午前8時前。JR光駅前には、バスを待つ人が列を作っています。山本さんが運転するバスが到着すると、続々と人が乗り込み、すぐに満員になりました。

一時は廃線の危機に

多くの学生たちが利用するこのバス。実は、廃線の危機にさらされていました。去年、中国ジェイアールバスは利用者の減少や収益悪化を理由に、光市の室積公園口と、下松市の下松タウンセンターを結ぶ「光・下松線」の3月末での廃止を発表。利用者からは戸惑いの声が聞かれました。

学生
「雨降ったら絶対使ってたんで、バスはそれ無くなったら悲しいですね」
会社員
「仕事やめないといけないですね、通えないから。タクシー使うしかないよね」

運転手不足で相次ぐ減便・廃止

このままバスが無くなれば生活に影響が出てしまう・・・地域の要望に応える形で、今年4月からは、防長交通と周南近鉄タクシーが運行を引き継ぎました。相次ぐ路線バスの減便や廃止。背景のひとつが、バスの運転手不足の問題です。

山本さん
「きょうは朝は6時半ですね、で、もう会社に帰れば午後7時は過ぎます。体力的っていうよりは精神ですね、やっぱり運転をする上でだいぶ、こちらの運転1つでお客さんの状況が変わってしまうので、そういった精神面では相当疲れます」

事故が起こらないよう安全に配慮しながらも、時刻通りに運行できるように。乗客の命を預かるだけに当然、神経を使う仕事です。防長交通には現在262人の運転手がいます。5年前と比べると、その数は2割ほど減っています。平均年齢は57.7歳。高齢化も進んでいます。

限られた人員で…苦渋の決断

こうした現状から、防長交通が引き継いだ光駅と室積公園口を結ぶ路線も、これまでの31往復から8往復と、3分の1以下に便数を減らして運行しています。この路線の運転手を確保するため、乗客数が少なかった光市と旧熊毛町方面を結ぶ路線バスを廃止し、グループ会社の周南近鉄タクシーに運行を引き継ぎました。限られた人数で新たな路線を担うための苦渋の決断でした。

防長交通乗合営業部・河合貴志部長
「なかなかもう、事業者だけの努力で雇用の確保っていうのは、もう難しい状態になってるかなと思います」

行政の後押しも特効薬なく

防長交通では、運転手として入社した人に10万円の支度金を支給したり、大型二種免許の取得費用を負担、自動車学校と協力して体験会を開催したりと、運転手の確保へ、手を尽くしてきました。

また、光市では新たにバス運転手になった人に最大40万円の給付金を出すなど、自治体としても後押ししています。しかし、どれも特効薬とはなっていません。運転手不足の解消は見通せない状況が続いています。

時間外労働規制が拍車

さらに追い打ちをかけているのが、今年4月に始まった時間外労働の上限規制、いわゆる「2024年問題」です。法律の改正などにより、バス運転手の時間外労働時間に上限が設けられたほか、1日の運転時間や拘束時間、次の勤務までの休息期間についても、制限が強化されました。このまま運転手不足が続けば、路線バスのさらなる減便や廃止からは逃れられません。

河合部長
「運転手数に応じた路線の見直しと、乗客の利便性の向上という、矛盾したようなことを、2つを同時に考えながら運行計画を考えていくと。なかなか難しい状況にあろうかと思っています。従来どおり、いつまでもバスがあるとは限らないのが今、現状かなと思ってます」

人手不足に加え、収支面でも厳しい状況が続いています。防長バスによると、現状、路線バスだけで利益を上げることはほぼ不可能だそうです。自治体の補助金などを活用してなんとか走り続けている状況だといいます。

交通弱者の移動手段どう守る?

「いつまでもバスがあるとは限らない」。一方で、子どもや高齢者など、自分で移動手段を持たないいわゆる「交通弱者」にとって、バスは、なくてはならないものでもあります。

現在61歳の山本さん。自身に重ね合わせて、バスの大事さを感じています。

山本さん
「子どもさんがおられる以上、そういった交通弱者の足でありたい。で、自分らも年齢が年齢ですから、いつかは免許返納の時を考えれば、自分も含めて、バスっていうのはあってほしいなと。今と同じように皆さんの足であるという将来であってほしいなと思いますね」

バスが「地域の足」であり続けるために。公共交通の「これから」はバス会社や行政だけでなく、私たち自身も考えるべき時が来ています。

県交通政策課によると、県内の路線バスの運転手は727人いますが、そのうち、30歳以下はわずか11人。割合にするとおよそ1.5%。このままだと本当に私たちの生活からバスがなくなってしまう日が来るかもしれません。「あって当たり前」ではなく、地域全体でバスなどの公共交通をどう守っていくか、考えていきたいですね。

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