能登半島地震で倒壊した建物から運び出されたピアノ。誰でも弾ける「ストリートピアノ」として石川県輪島市門前町に設置されています。地震発生から半年あまり。被災地から聴こえるピアノの音色と演奏する人達の声に耳を傾けました。

門前町に置かれたストリートピアノ「これから復旧・復興に向かっていくにあたって音楽って絶対必要」

能登半島地震の被災地、石川県輪島市の門前町。ピアノの音色が聴こえてきます。

門前町に住む高校生
「ゲームの曲でToby FoxさんのMegalovaniaっていう曲。好きな曲。他の人にたくさん見られているのはちょっと恥ずかしいですけど、聴いてもらえて嬉しい。緊張しましたけどピアノを弾くことは好きなので楽しいなって」

誰でも自由に弾けるピアノは「ストリートピアノ」と呼ばれています。

ピアノの持ち主、杉本 豊さん。調律師で木工職人。去年4月、東京から門前町に移住した杉本さん。しかし…

ピアノの持ち主 杉本 豊さん
「これは1月1日の午前中なんです」

杉本 豊さん
「次の写真が地震の後なんです」

店舗兼住宅は全壊しました。

杉本 豊さん
「地震で天井が落ちてきて、(ピアノは)がれきの下にあったわけですね。多少傷はつきましたけど、問題ないなとは思ったんですね」

地震から約1か月後、ピアノを運び出して商店街に設置。すると、被災地を訪れた人が演奏するように。

弾き語りをするのは、全盲のシンガー、若渚さん。

全盲のシンガー 若渚さん
「“アメイジング・グレイス”って祈りを捧げる曲として古くから知られているんですよね。被災地の皆さんに少しでも笑顔に、元気になってもらいたいなという思いで祈りを込めて歌わせていただきました」

杉本さんがピアノに込めた思い。それは―

杉本 豊さん
「これから復旧・復興に向かっていくにあたって、音楽って絶対必要だと思っているので、このピアノが町の皆さんの光になればいいなと」

仮設住宅で暮らすピアノの持ち主・杉本さん「だいぶいい環境になってきたかな…」

元日の地震で震度7を観測した石川・輪島市 門前町。

1月に撮影した建物は、今も倒壊したままの状態。

杉本 豊さん
「ちょうどここに自宅がありまして」

一方、杉本さんの店舗兼自宅は解体が終わっていました。

杉本 豊さん
「子どもたちも私も本当に大好きだった家なので悲しいですね。あの大好きだった家がなくなってしまった」

杉本さんは、5月に仮設住宅に入居しました。

杉本 豊さん
「門前町では最初の入居だったんですよ。ホッとしましたよね。やっと家族の生活ができると」

杉本さんは2人の息子を育てるシングルファーザー。料理の腕前には自信があるそうで。

杉本 豊さん
「お父さんが作った料理で美味しくないのは?」

子ども
「あんまりない」

杉本 豊さん
「何が一番好き?」

子ども
「カレー」

杉本 豊さん
「カレー簡単だもんな」

野球が大好きという子どもたち。

杉本 豊さん
「避難所生活も2〜3か月やっていたので、だいぶストレスもあったのかなと思うんですけど、(今は)だいぶいい環境になってきたかなと」

兄弟は毎日、仮設住宅の前で練習に励んでいます。

「半年こんな感じなので」「日本は能登のこと忘れちゃったのかな」

門前町出身の宮下杏里さん(33)。町に活気を取り戻したいと活動しています。

総持寺通り協同組合 宮下杏里さん
「いまこの門前町の現状で言うと、仮設住宅に入れた方と、まだ避難所に避難されている方と、お家にいる方で、コミュニティがバラバラになってしまっていて、みんなの気持ちとか心のケアがすごい大事な時期に入っているなと感じていて」

宮下杏里さん
「半年こんな感じなので。もう慣れちゃいました、この風景に」

商店街は34店舗のうち20店舗が全半壊しました。

宮下杏里さん
「もう半年ですけどね。“日本は能登のこと忘れちゃったのかな”って思っちゃいますね」

宮下さんが今伝えたいこと―

宮下杏里さん
「一週間のどこかで『能登半島いまどんな感じかな』とか『大丈夫かな』と思ってほしい。できれば現地に来てほしい。いろんな人が来てくれると心の支えになる。『何かしなきゃいけない』と思わなくてもいいのでまず来てほしい」

ピアノが置かれた広場でビアガーデン「一日だけの笑顔かもしれないですけど…」

7月14日、ピアノが置かれた広場は賑わっていました。宮下さんらが主催したビアガーデンです。久しぶりに集まった町の人たち。そこには笑顔も。

門前町民
「久しぶりに会う方もこういうところに来るとお会いできるので嬉しいです」

門前町民
「明るい話題がないもんで、たまにこんなんもいいなって感じで」

飲食店が半壊 安田俊英さん
「一日だけの笑顔かもしれないですけど1月後半とか2月のときに比べれば、きょうはすごく前進かなと思っています」

こちらの男性はなんと北海道から。

全国のストリートピアノを巡る 鈴木雅史さん
「ストリートピアノを弾くために、車中泊をしながら日本中まわっています。調律がすごくいいですね。いま弾いた曲を知っている方はいないと思うんですけど、いいメロディだと思うので、元気づけられたらなと思って弾いてみました」

門前町出身 四柳光樹さん
「音楽って誰でも繋がれるというか、このイベントもそうですけど、地域の人が集まって繋がりを深めながら少し長い目でリラックスしながら復興に向けて繋がって行けばいいなと」

宴は夜まで続きました。

宮下杏里さん
「震災後、半年経ちましたけど、現状変わっていないことがいっぱいあるので、そんな中でワイワイガヤガヤしてもいいのかという葛藤はあったんですけど、きょうみんな楽しそうだったので大成功かなって思います」

「選曲や弾き方が変わるかもしれない。その変化が良い方向の変化であるよう願い…」

上村彩子キャスター:
地震によって住む場所がバラバラになって、地域の人たちの分断が進んでいるというお話がありましたが、ピアノの周りには人が集まって、憩いの場になっていました。やはり音楽には人と人を繋ぐ力があるなと改めて感じました。

喜入友浩キャスター:
そしてその場でどの曲を演奏するかは、その人の思いや置かれている状況がきっと映し出されていると思うのですが、この先、選曲や弾き方が変わるかもしれません。そのときに、その変化が良い方向の変化であるよう願いつつ、心を寄せたいと思いました。

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