バブル期、別荘地として隆盛を極めたものの、その後別荘の多くが「廃墟」になった島があります。岡山県備前市の鴻島(こうじま)です。

しかし、近年廃墟が減り、島に移り住む人も増えているといいます。一体なにが?その背景を取材しました。

移住者が増える瀬戸内の小さな島・鴻島 なぜ人気?

満開の桜の下。島の住民らが集まり宴です。ここにいる多くの人が「島生まれ」ではありません。

(住民)
「兵庫県から移住して来ました」
「京都からです」

「私は中国の湖北省の都市から来ました。とても楽しいです」

日生の港から定期便でおよそ15分。備前市の鴻島です。絶壁に建物が立ち並ぶ、不思議な景観。ここに、近年移り住む人が増えているといいます。

(中島康徳さん)
「ここですね。わが家です」

兵庫県から移住した中島さん夫婦です。最初は、自分たちの「秘密基地」がほしいと、別荘としてこの家を購入したといいます。

(中島愛華さん)
「おいでー」

自然豊かなところが気に入り、去年住民票を移しました。

(中島愛華さん)
「ここに来て初めてタヌキを見た。すごく可愛いなと思って」

豊かな自然と共に、ある「要素」も中島さんの別荘購入を後押ししたといいます。

(中島康徳さん)
「別荘を探していたときに、鴻島の物件をいろいろ扱っている会社に出会って、安く購入した。160万円で買いました」

土地やリフォーム代などを合わせても合計で200万円。格安物件です。一体なぜ?鴻島の歴史に理由がありました。

バブル期には「億超え物件」も一大別荘地は「廃墟」に

1980年代後半。世の中がリゾートブームに沸き、鴻島は一大別荘地として開発されました。

バブル経済を背景に、数千万円から億を超える別荘が売られ、関西からリゾート客が押し寄せました。しかし。

(島の住民 上田豊延さん・当時65歳)
「大きな不動産屋が3軒も4軒も来てな、開発したけれど今じゃみな潰れてしもうてな」

バブルの崩壊で、別荘の管理をしていた開発業者が倒産。別荘のオーナーも島を離れ、残された空き家は廃墟になっていきました。

その状況に、島で生まれ育った人は心を傷めていました。

(島の住民 上田豊延さん)
「バブルがはじけて10年、20年経った時には空き家ばっかりになって、ほんまにはあ…大丈夫かと思っていた」

そこに目を付けた不動産会社 見出した価値とは?

そんな中、島に転機が。19年前。大阪で田舎暮らし物件を中心に扱う不動産会社が鴻島の状況を知り、動きだしたのです。

(三和開発コンサルタント 高野光秋さん)
「『物件を売りたいんだけど、どこに行ったらいいかわからない』というお客さんの声が多々聞かれたんですね」

「足を運ばないと見られない景色ですね。瀬戸内海の。これと同じような物件は、探してもないよねと」

「売りたい」というオーナーが多く、海を望む絶景も魅力だったことから売買に乗り出しました。

廃墟になっていた空き家はリフォーム。離島かつ、築年数が経っている物件のため安く販売され、最近の5年間だけでも62軒売れたといいます。

「別荘4軒買いました、2000万円」

中にはこんな男性も。

「島内に4箇所物件を持っていまして」

バブル期から1軒の別荘を所有していましたが、その後3軒買い足し、移住。気分によって過ごす家を変えているといいます。

(男性)
「(4軒で)大体2000万円くらいですね。世界中で1番いい所ですよ」

最近は、海外の人も。中国から訪れたアイさんは、鴻島の景色に惚れ込みました。5年前から、母国と行き来しながら島で民泊を営んでいます。

(アイ シュフンさん)
「初めてこの島に来て、深い印象を受けました。ここに暮らして民泊をして世界中からの観光客を招待したいです」

なぜここに来て「廃墟の島」が甦ったのか 時代背景は

そして今。

(松村みなみ記者)
「こちら、きちんと管理されている建物です。そしてあちら、ウッドデッキが素敵な建物です」

「明らかに管理されていない建物は、ほとんどないように見られました」

島の物件を手掛けている高野さんは、「近年の生活の多様化が鴻島での生活スタイルに合致したのでは」と話します。

(三和開発コンサルタント 高野光秋さん)
「多拠点生活ですよね。1つの場所にとらわれることなく、皆さんいろんな場所でいろんな活動をされる。そういう点では鴻島も同じ」

中島さん夫婦も、以前住んでいた兵庫県と鴻島との二拠点生活を送っています。

中島さんはサラリーマン。神戸市の会社に出勤する必要があるため船の免許を取りました。

ー自家用車が船ってことですか?
(中島康徳さん)
「まあそんな感じで…」

島にはスーパーがないため、買い物に行くのももちろん船です。移住して、生活が大きく変化したといいます。

(中島康徳さん)
「以前は会社と家の往復だけだった」

(妻 愛華さん)
「ここだったら不便かもしれないけど、することもいっぱいある。2人で今度はどうしようかっていう」

そして人口も増え始めた!

高齢化により人口が減っていく地域が多い中、国勢調査によりますと鴻島では少しずつ増えています。

(民宿を営む 美香さん)
「やっぱり若い人がいると助かる。めちゃくちゃ助かる」

(昨年移住した大西悠介さん)
「今年も、美香さんのために一生懸命掃除します」

(美香さん)
「なんでうちのために…」
「みんなで頑張ったらいい」

島の住民や移住者だけでなく、たまに訪れる別荘のオーナーも自治会を作り、過ごしやすい島にするため防災活動や掃除などを続けています。

(中島康徳さん)
「皆さんの暮らしや安全を確保するため、役所とかにも問い合わせしてやっていきたい」

中島さんは、今後、ネットの通信環境や島内での交通手段も整えていきたいと考えています。

(アイシュフンさん)「みんな家族みたいだよ」
(中島康徳さん)「うれしい」

ー賑やかでいいですね

(上田豊延さん)「こんなこともなかったからな」

(別荘の所有者)
「すごくこの島はきれいになった」「最高です」

かつて、廃墟であふれた島が自由で新しい生活を実現する島に。島の住民や移住者、別荘のオーナーが手を取り合い、歩み始めています。

(スタジオ)

定期便が1日5往復。ネット環境にもまだまだ課題があるということなんですけど、ただそれが新たな価値観や刺激を与えてくれるかも知れません。

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