声優などの声を無断で使った「AIカバー」が氾濫、問題となっています。「声の権利」をどう考えていくべきか?「進撃の巨人」のエレン役などで知られる声優・梶裕貴さんは自身の声を「製品」にするプロジェクトに乗り出しました。

声優・梶裕貴さんと語る「声」と「権利」有名人の声を無断「AIカバー」

「#AIカバー」

喜入友浩キャスター
「今、私の声を吹き込んでいます」

喜入キャスターも自身の声を使って作ってみました。

「まいごの まいごの子猫ちゃん あなたのおうちはどこですか」

喜入キャスター
「違和感は拭えないんですけれども、確かに歌ってますよね。自分が歌った方が上手いんですけれども…」

SNS上には、今、生成AIに人の声を学習させて人気の歌を歌わせたり、有名なセリフを言わせたりしている投稿があふれています。

20代
「本人じゃなくてAIで歌わせているやつをよく見る」

20代
「TikTokとかで流行っていた」

高校生
「よく思わない。その人の唯一無二な声が量産されるのって、ファンからしたら嫌だ」

問題となっているのは、投稿の多くが歌手や声優の声を許可を得ずに作った無断AIカバーであること。

そうした中、声の悪用を止めるため、AIを使って自らの声を製品化した声優がいます。

進撃の巨人の主人公エレン・イェーガー役などで知られる、梶裕貴さん。梶さん自身も無駄なAIカバーの問題に直面した1人です。

実際SNSには、梶さんの声を無断使用したAIカバーが投稿されていました。

梶裕貴さん
「僕らは演じること、キャラクターに声という部分で命を吹き込むというところに命をかけているお仕事なので。愛情・熱意を込めて一緒に作らせていただいているキャラクターたちが汚されてしまっている。自分自身の声が知らないところで知らない人に形を変えて使われていること、広められているっていうのは少し想像すると怖いことだなって」

実は今の日本の法律は「声」を著作物として認めていません。

そうした中で、梶さんは今、自分の声とAIを使ったプロジェクト「そよぎフラクタル」を進めています。

梶裕貴さん「AI技術を敵対視しているわけではない」

そこで生み出したのが、梶さんの声をデータベースに持つキャラクター「梵そよぎ」です。

梶さん
「皆さんに自由に使っていただいて、新しいエンタメ作りができればと始めました」

このキャラクターを公認ソフトとして製品化。パソコン1台で、誰でも梶さんの声を持つ、梵そよぎで創作物を作ることができます。

梶さん
「そこに僕の著作権、ソフトの権利というのは一つ生まれているわけで、新しい手段を提供するの止めるのではなく、それを出すことで抑止に繋がるのではないか」

梶さんがプロジェクトでまず取り組んだのは、歌を歌わせるソフト「CeVIO AI 梵そよぎソングボイス」を製品化。そして次に製品化したのが、喋るソフト「CeVIO AI 梵そよぎ トークボイス」でした。

梶さん
「企画を進める中で、(AI)技術の素晴らしさ、限界点、役者だからこそ分かる(AIが)再現できないものも見えてきて。僕自身はAIという技術を決して敵対視しているわけではなく、アナログとデジタルの良いところを理解し合って進んでいくことがお互いの道にとってベストではないか」

声とAI。
声優・梶裕貴さんが描く未来は…

梶さん
「予期せぬものが生み出される瞬間が一番楽しい。自分1人だったら辿り着けなかったもの、見えなかった景色・作品を一緒に作れたらなという思いがあるので、ガイドラインをしっかり設けて、その中で自由に作って楽しんでもらって新しい文化が生まれるのかなと期待してます」

会話する「音声チャットボット 梵そよぎ AI」が7月末に正式発表される予定です。

一足先に体験させてもらいました。

スタッフ
「ニュース番組なので、最近気になってるニュースが聞きたいです」

梶さん
「最近気になっているニュースはある?」

会話できるソフト 梵よそぎ
「そうだな。最近は環境問題のニュースが気になるよ。特に、海洋プラスチック汚染の話題が多いけど、深刻だと思う。君も何か気になるニュースある?」

梶さん
「環境問題のニュースをね…。ここで初めて知る知識や情報があって、会話のラリーをすることで、もっと『梵そよぎ』というキャラクターを好きになっていってもらえるんじゃないか。その先にAIの印象が変わればとか色んな思いはありますが、(スマートフォンやAIなど)身近になってきたものがある中で、自分はどう向き合うか(スマホを)タップする間に考えてもらうきっかけになってくれたら嬉しい」

そっくりなAI音声“声の権利”ルールは?

小川彩佳キャスター:
「梵そよぎ」のガイドラインとしてNGなのは
・価値や品位を下げるような創作
・特定の思想を助長させる利用などをあげていますが・・・

梵そよぎの声で二次創作することはOKとしています。

データサイエンティスト 慶応大学医学部教授 宮田裕章さん:
キャラ崩壊させるような使い方は良くないということですよね。ただ一方で、今インターネットが出てきたときよりも新しいものが生まれている社会状況だと言われています。

まさに無秩序の中で、色々な可能性が生まれていく。その時にどういうビジネスが出てきたのか振り返ってみると、ある程度使いながら規制を一緒に考えていくことが大きな可能性を持った。

まさに梶さんの取り組みの中で、例えば音声AIガイダンスという味気ないものが、全部推しの声になったとしたらば、全然魅力が違ってくる訳です。新しい声の可能性がいっぱいあるのではと思います。

「みんなの声」は

NEWS DIGアプリでは『AIカバー』について「みんなの声」を募集しました。

Q.「AIカバー」にどれほど触れたことがある?
「作ったことがある」…0.4%
「聴いたことがある」…8.3%
「知っているが聴いたことはない」…36.3%
「存在を知らない」…55.0%

※7月15日午後11時22分時点
※統計学的手法に基づく世論《世間一般の意見・議論》調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは16日午前8時で終了しました

藤森祥平キャスター:
AIでそっくりな声を作れるということをまだ知らないという人も多いようですが、技術が進んだことで問題も起きています。

AIカバーで楽曲は著作権で保護されていますが、「声」そのものは知的財産法の分野において保護されていません

著作権法に詳しい田邉幸太郎弁護士は「そっくりな声を出せる技術は一定の想定はされていたものの、こんな急激に出てしまうとは思っていなかった。声の権利について議論が高まってきているところ」としています。

AIと著作権などについては5月に政府が「AI時代の知的財産権検討会」を行い、中間とりまとめを公表しています。

業界団体では、6月に「日本音声AI学習データ認証サービス機構(AILAS・アイラス)を設立し、ビジネスで正しく活用するルール作りをするとしています。

海外ではアメリカのテネシー州で7月にエルビス法が施行されました。「声」を個人の財産として保護する対象にしています。

小川キャスター:
急ピッチで対応が進んでいますが、技術にルールが追い付いていない状況ですね。

宮田教授:
一般の人たちも、これから真似される可能性が出てきます。オレオレ詐欺など既に見分けがつきにくかったですが、これからは生体認証と併せて、例えば「自分の通話がその人のものである」と証明するような技術は、実はもうスマートフォンの中にあるんですよね。なのでそういった対策が出てくるのではないのかなと思います。

藤森キャスター:
皆さんに「声」の権利について聞いてきました。

「声」の権利 街の人はどう思う?

15歳
「それで悪用とかがされなければ(声に)著作権をつけるのは良いと思う」

20歳
「ダメとまでしなくて良いんじゃないかな。TikTokとかで使うぶんには良いと思うが、犯罪とかになったらそういう時はダメみたいな」

19歳
「歌のモノマネとかよく見るので、それがダメだよと言われたら悲しい気持ちになる」

19歳
「(声の権利化に)どちらかと言うと反対。クリエイティブの世界は自由が尊重されるような権力みたいなものが入っていくのはあまり好きじゃないなと思う」

藤森キャスター:
「一般の人の声の権利」について、田邉弁護士は「一般人でも容貌等について肖像権は保護されている。それと同じように声も保護されるようになっていくべき」としています。
 
小川キャスター:
コミュニケーションの在り方自体も変わっていくという事なのでしょうか?

宮田教授:
今までよりも本人を特定できるような情報技術は上がってきているので、それを活用しながら可能性を広げるとともにプライバシーもしっかり保護していく。このバランスが必要になると思います。

小川キャスター:
結局は対面が一番安心というようなアナログ回帰も起きてきそうなような気もします。

宮田教授:
例えば、Zoom会議でも自分の姿を出さなくてはいけない場面があるんですが、認証したものとアバターを出せば本人ですよとか、そういう信頼の作り方も出てくると思うので、いろいろな試行錯誤が一気にこれから始まるんじゃないかと思います。

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<プロフィール>
宮田裕章さん
データサイエンティスト
慶応大学医学部教授
科学を駆使して社会変革に挑む

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