2025年大阪・関西万博を巡り、政治団体・大阪維新の会代表の吉村洋文大阪府知事が3月、テレビコメンテーター玉川徹氏の万博会場への出入りを禁止すると発言した。「言論統制だ」などと批判が相次ぎ、撤回して謝罪。だが、自身の「出禁」発言の重みをどこまで分かっているのだろうか。(木原育子)

◆「『入れさせてくれ』『見たい』といっても禁止」

大阪府の吉村洋文知事=2023年撮影

 「ぼくからいいですか。大丈夫ですかね、発言させていただいて」  今月10日の大阪維新の会の記者会見。冒頭でそう切り出した吉村氏は「政治集会とはいえ、不適切な発言で、間違っていた。玉川さんに謝罪します」と述べた。終始、硬い表情を崩さなかった。  「不適切」発言があったのは3月23日、大阪府茨木市で開催された「維新タウンミーティングin茨木」。  吉村氏は、建設費約350億円とされる万博会場の木造環状屋根「リング」を絶賛。「今、批判している、名前言えませんけどもモーニングショーの玉川徹。批判するのはいいけど、入れさせんとこと思って。『入れさせてくれ』『見たい』といっても、もうモーニングショーは禁止。玉川徹禁止と言うたろうかなと思う」と発言した。

◆身内から助け舟

 「モーニングショー」は玉川氏が出演するテレビ朝日の情報番組。リング建設などに疑問の声を上げていた。交流サイト(SNS)では、官公庁が都合の悪いメディアを拒否する「出禁発言」との批判が噴出。「権力が番組を選別するような発言は問題」「言論統制につながるのでは」といった声が渦巻いた。

公式キャラクターのミャクミャクが登場した大阪・関西万博のPRイベント=2023年11月

 これに対し吉村氏は今月1日、「政治家として政治的な意見を言った。出禁にする権限が全くないという前提での発言だ」と反論。日本維新の会の馬場伸幸代表もX(旧ツイッター)に「イッツ・ア大阪ジョーク。わからんかな」と投稿し、助け舟を出した。  だが3日には、元大阪市長で弁護士の橋下徹氏が民放番組で「自分の行動で相手側の自由を奪うようなペナルティーを加えるようなことはまずい」と発言。前大阪市長の松井一郎氏も6日、自身のYouTubeチャンネルで「もっと広い心で(万博会場へ)玉川さんを案内してあげて」とたしなめていた。

◆万博への支持が広がらない状況に焦りといら立ちか

 法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)は「最近、政治をウオッチする記者は権力側にかみつかない人が増えた。両者の関係はなれ合いではなく、緊張関係があった方がよい」と求めたうえで、「特定の人や会社を名指しし、報道させないのは、言論統制できる権限があるなしではなく、言論の自由に抵触する可能性があった」と断言する。  大阪在住のジャーナリスト吉富有治氏は「自分の発言が言論統制につながることを本当に理解しているのか」と首をかしげる。確かに吉村氏は謝罪会見でも、「ある程度は公平に論じていただきたい思いは変わっていない」「言論は彼(玉川氏)が自由にモーニングショーでやられている。言論統制をするつもりは当然なくて。そんなん本気でやることもできない」と強調していた。  吉富氏は「権力側が報道機関に指摘するなら、具体的にどの部分がどう駄目なのかしっかり示さなければならない。それもなく、自身に不利な批判的な意見を頭から押さえ付ける。それを言論統制というのだ」と指摘。背景に、万博の支持率が上がらないことへの焦りといら立ちがあると分析する。「自身の発言でこれ以上足を引っ張るわけにはいかず、戦術として謝罪したに過ぎない」 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。