静岡放送の前ニュース編集長で現ディレクターの増田哲也(41)が第2子誕生を機に育休を取得し、日々の体験を日誌に書き留めた。専業主婦の妻に家事育児のほぼすべてを任せてきた増田にもたらされた変化とはー。増田とは対照的に夫婦共働きで家事育児を担う同ディレクターの伊豆田有希(41)が日誌を読み、「仕事と育児」について増田と対話した。

(伊豆田)
育児休業を「休み」と捉えられるのは違和感があるよね。仕事はしてないけど、家で休息してるわけじゃない。

「あいつがいなくても、仕事は回る」が怖い

(増田)
育休が明けて出社した直後は、「少しはカラダを休められた?」「リフレッシュできた?」と言われたね。全員、男性の上司。本当に悪意はないと思うので、言葉を改めてほしい気持ちは毛頭ない。だけど、いい気分はしなかったよね。でも、自分も育休を取ってなかったら、その発言を「する側」だったと思う、確実に。

(伊豆田)
間違いないだろうね。ところで2023年の大企業の男性育休取得日数は、平均46.5日。増田も47日とほぼ同じ日数だったよね。妻からすると、もっと取ってほしいはず。第2子の出産後は、環境の変化から上の子が「赤ちゃん返り」するケースも多いから、第1子の出産後の2倍は手が掛かるでしょ?

夫が1か月の休みを取った時はまだ、「男性育休」という言葉も、企業に取得率を公表する義務もなかった。夫は「育休取得の事務手続きが煩雑だから、有給休暇を消化して育休に充てたい」と言って有休を取った。職場で前例がないから、長期の休みを取ることに躊躇したらしいけど、産前に私が入院した経緯もあって「できる限り休んで」という求めに応じてくれた形。

でも、今は制度的にも社会的にも取得しやすくなり、夫の勤務先でも1年の育休を取得する男性が出てきてる。増田はもっと長く取れるのに、なぜ平均的な日数しか取得しなかったの?

(増田)
妻と育休の取得について話し始めた頃は「2週間くらいなら取れるかな」と伝えたと記憶してる。身近に半年取得した男性社員がいたけど「半年は怖いなー」と思ったね。何を恐れるのか自分に問いかけると、組織内で「あいつがいなくても、仕事は回る」と思われるのが怖いという結論に至ったね。

1人抜けたくらいで組織が回らなくなるなんてことは実際はないんだけど、入社から20年近く、己の存在価値を仕事と直接結びつけてきたということだよね。自分から仕事という要素を取り除いたら、どう自己紹介していいか分からない。この不安って通じるのかな。

そんな不安を妻に話した結果、「産後のケアで2週間、新しい生活のペースを掴むのに1か月=計1.5か月取れる?」と言われ、それをそのまま上司に相談したね。

(伊豆田)
なるほどね。組織内で必要とされなくなるかもしれない、居場所がなくなるかもしれない不安、分かるよ。私も20代の頃はそういう気持ちを抱いてたなぁ。

だけど、女性の場合は産むと一転、一時的に子どもに“全集中”する。少なくとも子どもの首が据わって、見た目にも「栄養が行き届いてどっしりしてきたな」と安心感を得られるまでの数か月は、それ以外のことは本当にどうでもよくなる。産後の感覚の違いは、単純に性差かもしれないね。

個人的には長期の育休取得を、男性が「怖い」と感じなくて済む社会になってほしいと思う。家庭によって必要な育休取得日数は異なるから。そのためにはこうして、育休を取得した男性の体験談を、会社の管理職や社員に共有していくことが第一歩といえるよね。

【プロフィール】
増田哲也
:静岡県牧之原市生まれ。2005年静岡放送入社。社会部記者や編成、営業を経て、2022年から夕方ニュース番組「LIVEしずおか」編集長。2024年4月からバラエティーやドキュメンタリーを制作するディレクターに。アスリート、会社員を経て現在は専業主婦の妻、長男ツン(2)、次男タダチン(0)と4人暮らし。近所に頼れる親族はなく、長男の誕生以降、家事育児は妻が担ってきた。2024年4月の次男誕生をきっかけに約1か月半の育児休業を取得。

伊豆田有希:広島県福山市生まれ。静岡新聞などで18年間新聞記者。人事異動で2023年から静岡放送報道部の記者兼ディレクター。小学生の長男(11)、次男(8)、保育園児の長女(5)、メーカー勤務で遠距離通勤の夫と5人暮らし。2023年3月まで9年間、短時間勤務制度を利用した。次男と長女の誕生後は、それぞれ1か月ずつ夫も休みを取得。現在は夫が週2日在宅勤務。2週に1回は家事代行業に頼りながら、夫婦2人で家事育児を分担している。

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